ストレスコーピングとは?ストレスの原因とコーピングの導入方法
ストレスは働く上で避けにくい問題です。ストレスに対処し、良い方向に転換させることをストレスコーピングと言い、心身ともに健やかに働くために近年注目されています。
社内教育にコーピングを取り入れることで、社員が働きやすい環境をつくり業務パフォーマンスの向上につなげられます。
しかし、「コーピングとは何か」「具体的なコーピングの実践方法とは?」「コーピングを導入する方法とは?」と思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ストレスコーピングの概要や種類、実践方法を詳しく解説します。
ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとは、ストレスに対処するための行動のことを指します。
ストレスコーピングの「コーピング」には、「対処する」「対応する」「切り抜ける」といった意味があります。ストレスに対処する手法のことを指し、職場でのストレス対策として注目されている概念です。
働く上で人間関係や仕事、環境などさまざまなストレス要因があり、自分では気づかないうちに身体が感じていることもあります。心身ともに健やかに働くためには、ストレスの対処法を知ったり、予防したりすることが大切です。
ここでは、ストレスコーピングについて、元となったストレス理論や適応規制との違いなどから詳しく理解していきましょう。
R・S・ラザルスのストレス理論が基になっている
ストレスコーピング理論の基礎となっているのが、研究者であったR・S・ラザルスのストレス理論です。ラザルスは、人間がストレスを感じる時の反応に対して、ストレスを与える要因であるストレッサーの大きさを一次的認知評価、ストレスを二次的認知評価という2段階で認知すると提唱しました。
ストレッサーをストレスを認知する際には、脳がそれを有害であると捉えた時に、ストレスと判断します。二次的認知評価は、ストレッサーを対処できるか・できないかを判断するステップです。対処できない場合には、ストレスを感じやすくなります。
ストレス理論では、ストレッサーと対処法がポイントであり、ストレッサーへの対処法がわかっていると、ストレスを軽減できることを示しているのです。
コーピングと適応機制の違い
ストレスから心身を守るために、無意識に起こるのが適応機制です。適応機制は欲求と深い関わりがあり、欲求が満たされないことによって起きる緊張や不安などを、人間は適応機制によって制御しています。
適応機制にはいくつか反応があり、他の手段で欲求を収める「代償」や欲求不満を他者にぶつける「攻撃」などさまざまです。
ストレスコーピングもストレスから逃れる行動ですが、自ら行うのか、無意識に行われるかといった部分に違いがあります。適応機制は本能的な反応、ストレスコーピングは能動的な対処と覚えておきましょう。
コーピングが注目される社会的背景
コーピングが注目されるようになった社会的背景には、仕事へのストレスを抱えている人が多いことが挙げられます。
厚生労働省が令和4年に発表した「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事に関するストレスを感じている労働者の割合が82.2%でした。
このことから、社会に存在する労働者の大多数が、仕事へのストレスを抱えていることが読み取れます。過度なストレスは仕事のパフォーマンスを低下させてしまい、生産性低下につながりかねないという問題があるのです。
そのため、コーピングを取り入れた施策を立てる企業が増えており、ハラスメント対策に導入された事例もあります。社員が安心して働ける職場ができれば、職場環境の改善や生産性の向上などが期待できます。
ストレッサーとは「ストレスの原因」のこと
ストレス理論で登場する「ストレッサー」とは、ストレスの要因のことです。
ストレスを抱える原因はさまざまで、人によっても異なります。主な原因として、以下の4つの要因があります。
- 環境的要因
- 身体的要因
- 心理的要因
- 社会的要因
例えば、理不尽な要求をしてくる上司にストレスを感じたら、上司が社会要因に起因するストレッサーとなります。パソコンの動きが悪くて仕事が進まずイライラするときのストレッサーは環境的要因としてのパソコンです。
具体的な人や物だけではなく、作業や環境、体調、気温など、ストレスの要因になるものはすべてストレッサーになる可能性があります。
また、ストレッサーは必ずしも大きな出来事だけではなく、日々の小さなストレスの積み重ねでも起きます。ラザルスはこのような日常的な苛立ちを「デイリーハッスル」と呼びました。日々のイライラが大きなストレスになることもあるので、些細なストレスでも対処していく必要があります。
以下、ストレスの要因ごとに詳しく確認していきましょう。
環境的要因
環境的要因は、ビジネスシーンでは職場環境や通勤環境と言い換えることができるでしょう。職場の冷房の設定温度が低くて寒い、周りの音が気になって集中できない、長距離通勤中に渋滞にはまって身動きがとれないなど、環境が原因になってストレスが生じます。
職場環境であれば、冷暖房の温度を変えていいか聞いたり、集中できる場所に移動したりして対処することが可能です。オフィスに近い場所の工事による騒音、渋滞、駅の混雑など対処が難しい場合には、捉え方を工夫するなど、ストレスコーピングが必要になります。
身体的要因
病気や体調不良などの身体的要因も、ストレスを抱える原因の1つです。胃の調子が悪くて思うように食事ができない、睡眠不足でぼんやりする、病気で身体が思うように動かないなど、さまざまな身体的な要因があります。
まず考えるべきは、ストレスの要因になっている病気や体調不良、怪我などを改善することです。治療や休息などで回復する過程で、ストレスも和らいでいきます。
心理的要因
心理的要因には、怒りや不安、焦り、緊張、落ち込みなどがあります。怒りやイライラはストレスとして認識しやすいですが、その他の感情もストレスになる可能性があるのです。
心理的な変化があった時に、どのように考えるか、どのような行動をとるかでストレスの度合いが変わってきます。ストレスになり得る感情にならないように、マインドや行動を変えることも重要です。
社会的要因
社会的要因には、人間関係のトラブルや人事評価、労働時間や解雇されることへの不安などが該当します。他にもノルマや業務目標を達成できないことへの焦りなども含まれます。
特に職場に多いストレスのは、人間関係の問題です。自分以外の人と関わりながら働く場面がほとんどなので、他者と上手に関係を構築できないとストレスを感じてしまいます。苦手な人がいたり、ある人が自分に攻撃的だったりするなど、職場には人間関係の悩みが多いです。
プライベートな人間関係の悩みがストレスになることもあります。恋人や配偶者、友人、家族などとの関わりに問題を抱えていると、ストレスを感じやすいです。
コーピングの種類
ストレスコーピングには、主に5つの方法があります。
- 問題焦点型コーピング
- 社会的支援探索型コーピング
- 情動焦点型コーピング
- 認知的再評価型コーピング
- ストレス解消型コーピング
それぞれの方法と特色を詳しく見ていきましょう。
問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングとは、ストレスの原因を根本的に取り除く方法です。うまく対処すれば、ストレッサーがなくなるので、ストレスフルな状況を抜け出しやすくなります。
人間関係や環境を改善する、周りの人に相談して改善を目指すなど、問題に取り組む方法は問題焦点型コーピングの中でも接近型コーピングと言います。
それに対するのが回避型コーピングで、嫌なことを考えないようにする、いったん忘れて自分の時間を過ごすなど、ストレッサーから遠ざかることも効果的な方法です。
ただし、わかっていても改善できなかったり、考え方を無理に変えようとしたりすることにストレスを感じることには注意しなくてはいけません。
そのため、接近型コーピングと回避型コーピングのどちらかを用いるのではなく、ストレッサーに合わせて使い分けるのが有効です。どうしても改善できないストレッサーは回避する、改善の可能性がある場合は積極的に取り組むといったように、上手にストレスを対処することが求められます。
社会的支援探索型コーピング
社会的支援探索型コーピングでは、自分一人で解決しようとするのではなく、周りに助けを求める方法です。
職場の悩みを家族や友人に相談する、信頼できる上司や同僚に協力してもらうなど、悩みを聞いてもらったり改善を助けてもらったりすることで、ストレスの軽減を目指します。身近な人に助けを求められない場合は、支援・相談サービスを利用するのも良いでしょう。
情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングは、感情にアプローチするストレスコーピングです。例えば、落ち込みやすい場合に、ネガティブなことを考えないようにしたり、なるべく早く発散したりすることで、感情をコントロールしやすくなります。
ただ、考え方を変える能力であるコーピングスキルが必要になり、スキルが身に付くまではあまり効果を得られないこともあります。ストレスと向き合いながら、対処するスキルを身につける忍耐力が必要です。
認知的再評価型コーピング
認知的再評価型コーピングは、情動焦点型コーピングの1つです。簡単に言い換えるとポジティブシンキングであり、ストレッサーを前向きに捉えることで、ストレスを軽減します。
厳しい目標に対して、自分を成長させるためと考えたり、期待されていると受け止めたりするなど、ポジティブに変換する方法です。
ストレス解消型コーピング
ストレス解消型コーピングは、ストレスを感じてしまった後に行うコーピングです。「気晴らし型コーピング」とも言われ、趣味に没頭したり、買い物をしたりして気分転換を図ります。
多くの人が日頃から行っているストレス発散であり、気分をリセットすることによって、ストレスの軽減を期待できるのです。
コーピングリストの作成と実践方法
コーピングリストとは、ストレスの軽減や解消方法をまとめたリストのことです。
リストを作成することによって対処方法が明確になり、ストレスの原因や種類に応じて最良の行動ができる点が挙げられます。具体的には、その作成者にとって前向きな事柄を書き出し、それらを対処法として実践していきます。
対処法の効果はストレスの事柄によって異なるので、状況に応じて最善の対処法を把握できるよう、どの行動が特に効果的だったかを検証しましょう。そうすることで、効果的な対処法を優先的に実践できます。
以下、コーピングリストの作成、実践方法を具体的に確認していきましょう。
1.ストレスを書き出して記録する
まず、ストレスの原因となっている事柄を紙に書き出して記録しましょう。
ストレスを感じた時に、一度冷静になってどのくらいのストレスか5段階で記録したり、身体の反応を振り返ったりして、モニタリングをしてみることが重要です。
自分のストレスの原因をリスト化して確認することで、自分がどのようなことにストレスを感じるかを可視化できます。
自分にとってのストレスの度合いがわかれば、対処すべきストレッサーの優先順位がわかります。ストレスを感じた時の辛い反応を認識することによって、対策や気晴らしの大切さを改めて理解でき、コーピングスキルを向上することが可能です。
2.ストレス解消法を思うまま書き出す
自分が感じているストレスに対して、解消する方法を考えてみましょう。頭で考えるだけではなく、紙に書いてリストアップするのがおすすめです。対処方法は何でも構いません。
たくさんの方法があるほどストレスに対応しやすく、より効果の高い解消法を見つけやすくなります。
3.作成したリストの対処法を実践する
作成したリストの対処法を実践しましょう。
作成したコーピングリストを持ち歩くなどし、仕事でストレスを感じた際に取り出して確認し、少しずつ実行します。リスト内で自分の直面した状況に適したものを選択し、対処方法を試してみてください。
4.ストレスを解消できたか分析する
ストレスの観察と対処法の実践を行ったことにより、ストレスがどの程度緩和されたかを確認します。ストレスが大きく削減されていれば、その対処法に効果があったことになります。
あまり効果を感じられなかったら、他の方法を試して、自分にとって効果的な対処法を探しましょう。
企業としてコーピングを導入する方法
企業としてコーピングを導入するためには、以下の4つの方法が存在します。
- メンター制度やカウンセリング体制を整える
- コーピングに関する講座や研修を行う
- 1on1やランチ会を実施する
- ストレスが発生しにくい職場環境を整える
メンター制度やカウンセリング体制を整える
ストレスコーピングの1つとして、他の人に悩みを聞いてもらうことも大切です。人によって人間関係は異なるので、誰でも気軽に相談できるようにメンター制度やカウンセリング体制を整えましょう。
ベテラン社員をメンターにしたり、カウンセリングサービスを活用したりすると、ストレッサーを改善しやすくなります。
コーピングに関する講座や研修を行う
従業員に対して、ストレスコーピングの方法をレクチャーするためには、講座や研修を定期的に行うのがおすすめです。
新入社員や若手社員向けのセミナーはもちろん、管理者向けに自分自身のメンタルケアやマネジメント方法を講座でレクチャーするのも良いでしょう。自社で実施できない場合には、メンタルケアやメンタルヘルスに関する講座や資格の費用を補助するのも良い取り組みです。
1on1やランチ会を実施する
1on1とは、上司と部下が1対1の面談を行い、部下が抱える問題や課題などを共有する機会のことです。
部下自身から話をすることを重視しており、上司が部下の気持ちに寄り添うので、部下は業務上の問題や日々の業務で感じたことなどを伝えやすくなります。
また、定期的にランチ会を開催することでプライベートの話をしやすくなり、チームメンバー同士の親睦を深めたり、従業員がストレスの原因となる事柄を相談できたりなどの環境を作れます。結果、業務中に気軽な相談がしやすくなるでしょう。
業務中に相談がしやすくなると、ストレスの原因を解消できるので、ストレスが過剰になる前に解決できます。
ストレスが発生しにくい職場環境を整える
働きやすい職場環境を整えることで、従業員のストレスを軽減できます。
従業員がパフォーマンスを発揮しやすい環境であれば、ストレスを感じにくくなり、業務の効率も上がるでしょう。
具体的には、業務に注力するための専用スペースを設けたり、職場の温度を一定に保って体調を崩しにくくするなどの方法があります。従業員から要望をヒアリングすれば、より効果的な工夫ができるでしょう。
職場環境の整備にコミュニケーションツール「Talknote」
コーピングのためにはストレスを感じにくい職場環境の整備が必要です。従業員のストレスの原因を見つけ、問題につながる前に解消するためには、上司と部下、チームメンバー同士での定期的なコミュニケーションが必要です。
コミュニケーションを活発にするためには、手軽に会話しやすい環境の整備や上司と部下の垣根を超えたコミュニケーションなどが必要です。
これらをすべて行うためには、業務用のチャットツールの導入がおすすめです。従業員がプライベートでも使うツールで業務のやりとりを行うことは、逆に従業員のストレスを増加させてしまったり、情報漏洩の危険性など様々なデメリットがあります。業務用のツールを別途使用することが大切です。
特にTalknoteというチャットツールは、同僚への称賛や業務ノウハウ、ナレッジを蓄積できる機能があり、心理的安全性を高めるための一助となります。
従業員のタスク管理もでき、期限を超過した後のタスクの通知がされるので、業務の抜け漏れも未然に防げます。
まとめ
ストレスコーピングは、従業員に発生し得るストレスを未然に防いだり、従業員がストレスを感じた際にそれを解消したりするための対処法を実施することです。
従業員がストレスを感じにくい環境をつくり、ストレスを未然に防ぐためには、上司と部下、メンバー同士のコミュニケーションを活発にすることが必要です。
社内コミュニケーションツールの1つであるTalknoteは、社内のコミュニケーションの活発化とそれによるリスクマネジメントへの活用におすすめのツールです。
無料トライアルが可能なため、この機会にTalknoteをお試しでダウンロードしてみてはいかがでしょうか。