大人の成長について考える「成人発達理論」とは? | Talknote Magazine

大人の成長について考える「成人発達理論」とは?

人間は生まれてから成長を続けますが、子供から成人になった段階が一つの区切りです。ただ、一般的な基準で大人になったからといって、成長が止まったわけではありません。思考力やコミュニケーション力などは成長し続けるものであり、大人の成長を考える理論を成人発達理論と言います。

この記事では、成人発達理論が注目されている背景や段階を解説します。ビジネスシーンでの活用方法にも触れていますので、ぜひマネジメントに生かしてみてください。

成人発達理論とは?

成人発達理論とは、成人してからも知性や意識が発達するという理論です。そのため、成人以降の知性発達理論、成人以上の意識発達理論と呼ばれることもあります。

様々な学者が研究を行っていく中で、権威とされているのはハーバード大教育大学院教授・組織心理学者であるロバート・キーガンです。『自己変革の心理学』という共著論文がハーバード・ビジネス・レビューに掲載され、成人発達理論が広がるきっかけになりました。

著書『なぜ人と組織は変われないのか』では、詳細に成人発達について述べています。リーダーの能力の源泉のひとつとして、人間は何歳になっても世界を認識する方法を変えられる可能性を指摘し、大人になってからも成長することを論じました。

ロバート・キーガン以外には、クック・グロイターの自我発達理論、テリー・オファロンのステージズモデル、ビル・トルバートの行動論理段階モデル、ケン・ウイルバーのインテグラル理論などの理論があります。それぞれ重きを置いているポイントは異なりますが、成人のメンタルや意識、発達などについて研究し、成人発達理論を論じています。

成人発達理論が注目される背景

成人以降の成長は、これまでも身近なものでしたが、現代では以前よりも注目を集めています。その背景にあるのは、以下のような事柄です。

  • 目まぐるしい社会の変化
  • 少子高齢化社会の進展
  • 技術革新のスピードアップ

背景を一つひとつ把握し、成長発達理論をより理解していきましょう。

目まぐるしい社会の変化

ビジネス環境や社会の変化は目まぐるしくなっており、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり、VUCA時代と表現されています。

様々な事情が絶え間なく起きているだけではなく、予測が難しく、それぞれの状況が複雑になっているのが特徴です。そのため、社会の変化に対応することが求められ、個人はもちろん、組織にも柔軟性が必要とされています。

成人発達理論は、VUCA時代を戦い抜けるように、成人である従業員を育成するために重要な考え方です。

少子高齢化社会の進展

少子高齢化社会が年々進んでおり、労働人口の減少が顕著になりつつあります。企業にとっては、新しい人材を獲得するのが難しく、既存の人材を育てることが重要な課題です。

働き方の多様化によって、転職や独立が選択肢に増えており、せっかく獲得した人材が定着しないこともあります。既存の人材が年齢を重ねれば、ミドル層のマネジメントも必要です。

そのため、少子高齢化社会を背景に、既存人材の育成やマネジメントが重視されており、成人発達理論の活用に注目が集まっています。

成人発達理論の2軸

成長発達理論において、人間の成長には「水平的成長」、「垂直的成長」という2つの軸があるとされています。それぞれ成長する部分が異なりますが、どちらも人間的な成長に欠かせません。どのように成長していくのか、2つの軸を詳しく解説します。

水平的成長

水平的成長は、知識やスキルの成長を指します。成人になってからも、書籍を読んだり、セミナーに通ったり、資格を取ったりするなどの努力で、新たな知識やスキルを身につけることが可能です。

垂直的成長

垂直的成長は、知性や意識といった内面の成長を指します。考え方や見方などが変化することで、人との関わり方や発想、話し方など様々な面に変化が生まれます。

水平的成長に比べると、目に見えない部分が多いです。これまでよりも気配りができるようになった、柔軟な発想ができるようになったなど、内面的な変化が周りに認識されることで、垂直的に成長できたと言えます。

成人発達理論における知性の3段階

成長発達理論では、人間の知性は3段階で成長していくとしています。

  • 環境順応型知性
  • 自己主導型知性
  • 自己変容性知性

段階ごとに、それぞれの要点や知性の変化を解説していきます。

環境順応型知性

環境順応型知性とは、周囲の環境に応じて知性が形成されていくという考え方です。周囲に合わせるための方法を身につけていく過程であるため、この時点では自己はないとされています。

リーダーに任命されたときに、経営層やメンバーの考え方に合わせようとして、自分の考え方よりも周りを尊重したり、指示を待ったりする行動が多くなるのが主な例です。「指示待ち」「忖度」といった状態に近く、これから求められる自立した人材にはまだ遠いと言えます。

ただ、この知性が必要ないというわけではありません。周りを尊重すること、チームワークを重んじることは、組織を運営するためには必要です。ポジションや役割に応じて、自己主張や他者の尊重を使い分けられると良いでしょう。

自己主導型知性

自己主導型知性は、自分の価値観や判断基準を持ち、自ら判断・選択できる状態です。周囲に迎合するのではなく、必要に応じて自分で判断し、発言したり、軌道修正したりすることができます。自律型人材と表現され、現代で求められている人材の特徴のひとつです。

ただし、この段階では自分の価値観や判断にこだわるケースが多くあります。時には引いたり、他者の意見を取り入れたりするのが苦手なことが多く、客観的な視点には欠ける傾向がある点に注意が必要です。

自己変容性知性

自己変容性知性は、自己主導型知性よりもさらに冷静な判断ができる状態です。自分自身の価値観や判断基準は必ずしも正解とは限らず、周囲が持つそれらと調整していく必要があります。

自己変容性知性では、周囲の考え方や情報を取り入れながら、柔軟に判断や思考を変えることが可能です。周りに耳を傾けつつ、より良い判断ができる段階です。

成人発達理論における5つの段階

成人発達理論には、以下の5つの段階があります。

  1. 具体的思考段階
  2. 道具主義的段階
  3. 他者依存段階
  4. 自己主導段階
  5. 自己変容・相互発達段階

段階に応じて、スキルや思考が変化し、人間的に成長していきます。段階を理解することは、自分自身や部下などの成長を促す際に役立つはずです。

具体的思考段階

具体的思考段階は、成人発達理論の第1段階です。子供や未成年者を指し、具体的な言葉は理解できます。ただし、形のないものを想像して理解するのは難しい状態です。

すべての段階に共通しますが、子供だから、未成年者だから、理解が難しいとは言い切れません。発達段階には、個人差があることを念頭に置いておきましょう。

道具主義的段階

道具主義的段階は、自己中心的な発達段階です。他者を道具のように扱ってしまうことから、道具主義的と表現されています。自分は自分、他者は他者と認識しているため、自分を中心に思考・行動するのが特徴です。

他者依存段階

他者依存段階では、他者や組織に意思決定や判断を任せる段階です。「自分の意見がない」「流されやすい」と言い換えることができ、成人にも多いと言われています。

意思決定や判断に関する価値観・基準を持っていないことが要因で、周囲の指示や変化を待って行動・思考することが多いです。

自己主導段階

自己主導段階では、自分自身の価値観・判断基準で行動・思考できます。気になったことを発言したり、周囲に影響されず行動を変えたりできるのが特徴です。前述したように、自身の意見に固執しがちな部分は見受けられます。

自己変容・相互発達段階

自己変容・相互発達段階に進むと、自分自身の価値観を持ちながらも、周囲を尊重し、関わりの中で成長できるようになります。

他者の考え方や行動を自身に生かしたり、他者のために動いたりすることで、互いに成長することが可能です。

成人発達理論を活用したマネジメント

成人発達理論は、企業や組織においてマネジメントに関わりが深い考え方です。効率的な成長を促すためには、理論を活用した働きかけが大切になります。メンバーの育成に悩んでいる方は、マネジメントに取り入れてみましょう。

理論の構図を理解させる

成長を促すためには、現在地を知ることが大切です。自分自身が今何ができていて、何ができていないのかを知ることで、取り組むべきことが明らかになります。

成人発達理論をそのまま説明する必要はありませんが、成人になっても成長できること、どのようなステップで成長していくかなどを伝えれば、わかりやすく理論を理解してもらえるでしょう。

人材によって、現在持っている知識やスキル、マインドには個人差があります。一人ひとりの現状を把握した上で、適切な働きかけやフォローに取り組むことが重要です。

批判的内省を促す

批判的内省とは、前提や固定概念など自分自身の深いところまで省みることです。出来事や行動を振り返るだけではなく、根底にあるものまで見つめなおします。

自分自身を否定するのではなく、考えや行動に向き合い、良かったところや悪かったところに気づくことが大切です。内省を癖にするよう指導するほか、1ON1ミーティングなどで振り返りの習慣をつけると良いでしょう。

成長を可能にする組織づくりに取り組む

個人や組織としてマネジメントを実施しても、成長できない環境ならば、従業員の成長は望めません。自由に意見が言えなかったり、他者との関わりが少なかったりすれば、成人発達理論の段階を進むのは難しくなります。

自己主導や自己変容を表現できるように、立場や経歴を問わず発言できる、周囲から刺激を受けられるようにコミュニケーションが活発といった環境が望ましいでしょう。成人発達理論を理解した上で、組織づくりにもテコ入れを行うのがポイントです。

まとめ

成人発達理論において、人間は成人になっても成長できるとされています。知識やスキルが向上する水平的成長、知性や意識が成長する垂直的成長の2軸があり、個人の努力や周囲の働きかけで変わることが可能です。

知性は、環境に順応するところから、周囲と関わりながら自己主張もできる段階へと成長していきます。成長を促すためには、現在地を知ることや振り返りの癖をつけることに加えて、変化を受け入れる組織づくりが必要です。成人発達理論を正しく理解し、人材育成やマネジメントに活用してみましょう。

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