社会人に求められる「リカレント教育」の取り組み事例をご紹介
年功序列・終身雇用の崩壊、人生100年時代の到来など社会は目まぐるしく変化しています。予想できない社会や長い人生で活躍するためには、現状に満足せず生涯に渡って学び続けることが大切です。
この記事では、リカレント教育が重要視される背景、生涯学習との違い、主な支援制度・事例などを解説します。
リカレント教育とは?生涯学習との違い
リカレント教育とは、学校教育から離れた後に、それぞれのタイミングで学びなおす社会人の学びのことを指します。厚生労働省が中心となり、経済産業省や文部科学省と連携してリカレント教育を推進しているのが現状です。
リカレント教育の概要を押さえたところで、生涯学習と似ていると感じた方も多いのではないでしょうか。ここでは、リカレント教育の定義を理解し、生涯学習との違いを把握していきましょう。
定義
リカレント(recurrent)には、「再発する」「周期的に起こる」「循環する」といった意味があります。リカレント教育は、仕事と教育を循環する、学校教育修了後も学び続けていくという意味合いで、社会人の学びなおしと定義づけられることが多いです。
一から学びなおすというよりも、既に持っている知識や技術をアップデートする、関連するものを新しく身につけるといった側面があります。
リカレント教育で学ぶ内容に明確に定められたものはありません。資格取得に関連するものやビジネスに役立つものなど、仕事に関わるものが多いです。
このリカレント教育が広く提唱されたのは、スウェーデンの文部大臣と首相を務めたオロフ・パルメ氏の取り組みがきっかけと言われています。ヨーロッパ文相会議で発表した翌年の1970年、経済協力開発機構が推進を決定し、世界と取り組まれるものになっていきました。
生涯学習との違い
学び続けるという表現を聞いたことがある方にとっては、生涯学習をイメージした方も多いのではないでしょうか。確かにリカレント教育の基本となったのは生涯学習の概念であり、「リカレント教育=生涯学習」という意味で使われることもあります。
しかし、リカレント教育と生涯学習は目的や内容が異なる点に注意が必要です。リカレント教育は学びを仕事に生かすのが主な目的ですが、生涯学習は人生を豊かにすることを目的としています。目的に対して、リカレント教育では仕事に活用できる知識や技術の習得に取り組みますが、生涯学習は楽しさや生きがいを感じられるものに取り組むという点が異なります。
両者が異なる概念だということよりも、どのように関係しているかを理解することが大切です。人生を豊かにすることには、仕事を充実させることも含まれるでしょう。そのため、生涯学習の中にリカレント教育が含まれていると言えます。
リカレント教育が重要視される背景
学び直しやスキルアップはこれまでも大切にされてきましたが、社会や企業単位で重要視されているのはなぜなのでしょうか。
その背景にある4つのポイントを見ていきましょう。
- 社会の変化が激しくなっている
- 終身雇用が崩壊しつつある
- 人生100年時代になりつつある
- デジタルディスラプションが起きている
社会の変化が激しくなっている
内閣府は、将来訪れる社会をSociety5.0と表現しています。狩猟社会をSociety 1.0、農耕社会をSociety 2.0、工業社会をSociety 3.0、情報社会をSociety 4.0とし、それに続く高度な技術・システムを持ち合わせた人間中心の社会と、目指すべき将来の姿を位置づけました。
ビッグデータや人工知能などの先進的な技術が次々と登場しており、生活は便利になり、ビジネスではできることが増えています。働く人にとっては、新しい技術を使いこなす必要があり、知識やスキルを習得するための方法として、リカレント教育が注目されているのです。
終身雇用が崩壊しつつある
これまでは、一つの企業で定年まで勤め上げる終身雇用が一般的でした。近年は、一つの企業に勤め続ける人は減りつつあり、転職や独立など雇用のあり方が変化しています。新卒一括採用や年功序列といった慣習も見直されており、企業は変化に順応しなくてはいけません。
優秀な人材は、待遇ややりがいなど条件に合う仕事を求めて流出するリスクがあります。企業は定着を促すために、スキルアップやキャリア形成を自社で実現できる体制を整えることが必要です。そのひとつがリカレント教育で、学びの機会をつくることで流出を防ぐ動きが出てきています。
人生100年時代になりつつある
これまでは、学生時代、社会人時代、リタイア後の人生といったライフステージで構成されていましたが、近年状況が変化してきています。1本の線ではなく、キャリアを模索したり、組織にとらわれない働き方を選択したりできるようになり、人生設計が複雑になっているのが現状です。
医療技術の進歩などにより寿命が伸びたことで人生100年時代が到来したとも言われ、長い人生を楽しむ上で仕事をし続けるための学びなおしが重要視されています。
デジタルディスラプションが起きている
デジタルディスラプションとは、デジタル技術の発達によって既存の産業が淘汰される現象です。デジタルカメラの普及でフィルムカメラメーカーの需要が減少する、AIやキャッシュレス決済の浸透で人員削減を迫られるなどが主な例で、これに直面する業界でリカレント教育が特に注目されています。
デジタル化を止めることは難しく、自身が変化しなければ淘汰されてしまう中で、時代に合った知識やスキルをリカレント教育で身につけることで、企業や従業員の生き残りを目指すケースがあります。
リカレント教育を受けるメリット
リカレント教育を受けるメリットは、以下の3つです。
- スキルアップやキャリアアップを目指せる
- 収入アップを期待できる
- 企業にとっては収益や生産性につながる
スキルアップやキャリアアップを目指せる
社会人になると、日々の仕事や生活で忙しくなり、自ら学びなおすことは後回しになりがちではないでしょうか。リカレント教育を受けることによって、仕事と両立しながら新しい知識やスキルを身につけることができます。
時代に合った知識やスキルを習得することは、日々の業務効率を上げたり、より高度な仕事に携わったりすることにつながりやすいです。
よりハイレベルな仕事に取り組める職場に転職できるチャンスも広がります。裏を返せば、企業として知識やスキルを生かす場がない場合、人材は流出しやすくなります。適切に評価したり、活躍の機会をつくったりすることで、自社で活躍してもらえる仕組みをつくりましょう。
収入アップを期待できる
新しい知識やスキルは、高い評価を得る要素のひとつです。リカレント教育によって、能力をアップデートできれば、時代に合った能力を持つ人材として評価され、収入アップを期待できます。
勤めている会社で昇給を実現できるチャンスが広がるだけではなく、待遇の良い職場に転職する機会も出てくるでしょう。
収入についても、企業は慎重に検討する必要があります。スキルアップしたにもかかわらず待遇に変化がなければ、人材は自身のスキルに見合った待遇を受けられる職場へと移っていくでしょう。リカレント教育の成果と人事制度を連動させることが重要です。
企業にとっては収益や生産性につながる
リカレント教育を社員に実施することは、企業の収益や生産性につながっていきます。従業員それぞれが時代に合った知識やスキルを身につければ、企業が提供する商品やサービスもニーズを捉えた質の高いものになるでしょう。社会に評価されれば、大きな収益を生む可能性があります。
また、一人ひとりが最新の知識や技術を発揮することで、業務の効率が上がるのもメリットです。効率よく成果が出せるようになれば、企業にとってはもちろん、人材にとっても働きやすくやりがいを感じられる職場になるでしょう。その結果、定着率の向上などの副産物も期待できます。
リカレント教育にかかるコストと支援制度
リカレント教育にはコストがかかるため、すぐに実施するのが難しいこともあります。そこで活用したいのが各種支援制度です。ここでは、コストと主な支援制度を見ていきましょう。
コスト
リカレント教育にかかるコストは、どのように学ぶかによって変わります。学校で学びなおすなら入学金や授業料などで数十万~数百万円、通信講座なら数万円といった費用がかかり、学ぶ期間によってもコストは様々です。
リカレント教育を受ける人は、どのような方法でどのくらい学ぶかを考えて、利用できる制度を活用しましょう。企業は、主な学びの方法に対して補助額や対象者の条件などを定めるのがポイントです。
支援制度
厚生労働省では、様々な支援制度を実施しています。
教育訓練給付金
教育訓練給付制度では、厚生労働大臣が指定した教育訓練を修了した場合に、受講費用の一部が支給されます。教育訓練は、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類です。支給額の割合や上限はホームページに記載されているので、詳しくは以下をご確認ください。
高等職業訓練促進給付金
高等職業訓練促進給付金は、ひとり親家庭の親を対象に、看護師や介護福祉士などの資格取得を補助する制度です。1年以上養成機関を利用する場合に、生活や入学時の負担軽減を目的に給付金を支給しています。
≫ 厚生労働省|母子家庭自立支援給付金及び父子家庭自立支援給付金事業の実施について
キャリアコンサルティング
厚生労働省委託事業としてキャリア形成サポートセンターでは、キャリアコンサルティングを無料で提供しています。在職者、企業・団体、学校関係者など、対象に合わせたコンサルティング・相談サービスを行っているのが特徴です。
公的職業訓練(ハロートレーニング)
公的職業訓練(ハロートレーニング)とは、希望する仕事に就業するために、必要な知識やスキル習得をサポートする制度です。離職者・求職者、在職者、学卒者、障害者を対象に、それぞれに合わせた支援を実施しています。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、従業員の能力開発を実施している企業が利用できる制度です。人材育成制度に関わる経費や訓練中の賃金などの一部に対して補助を受けられます。
≫ 厚生労働省|人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース)
リカレント教育に取り組む企業事例
リカレント教育は、様々な企業で取り組まれ始めています。ここで紹介するのは、以下の4社です。
- ヤフー株式会社
- サイボウズ株式会社
- パーソルキャリア株式会社
- 株式会社ミクシィ
特徴的な取り組みを参考にして、自社でのリカレント教育のヒントにしましょう。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社では、勤続年数10年以上の社員を対象に、自己研鑽のための休暇を取得できるサバティカル制度を実施しています。休暇取得のためには、目的や会社に還元できる理由などを伝える必要があるのが特徴です。目的を明確にすることで、社員自身が充実した休暇にしようと考えるきっかけになるでしょう。
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社では、リカレント教育の一環として育自分休暇制度を実施しています。35歳以下の社員に対して、退職後6年間は復帰できる制度で、その間転職や留学などでスキルアップを目指すことが可能です。成長したいが会社を離れるのは不安という場合でも、復帰しやすい環境を整えることで、チャレンジを後押ししています。
パーソルキャリア株式会社
パーソルキャリア株式会社では、進学や留学をサポートする制度を設けています。働く日数や時間、場所、休暇などを学びの方法に合わせて選ぶことができる仕組みです。最長1年間の時短勤務、最長2年間の休業などによって、社員はスキルアップを目指すことができます。
株式会社ミクシィ
株式会社ミクシィでは、リカレント教育を福利厚生として提供しています。各種資格の取得や英会話などを優待価格で目指すことができる制度です。取得した資格や身につけたスキル・技術は自社の業務に役立てることができます。
まとめ
リカレント教育は、雇用のあり方や技術革新など変化の激しい社会で活躍し続けるために必要な取り組みです。新しい知識や技術を身につけることでキャリアアップや収入アップを実現でき、企業にとっては業績や生産性への良い影響を期待できます。支援制度や他社の事例を押さえて、自分自身で学びなおしに取り組んだり、会社で制度化したりするなど、リカレント教育を進めていきましょう。