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ISO30414とは?
人的資本の情報開示が求められる背景や
具体的な項目を解説

人的資本とは、「個人が持つ知識、技能、能力、資質等の付加価値を生み出す資本とみなしたもの」という意味を持つ言葉です。企業において人的資本は欠かせないものですが、これまで公に開示されることはほとんどありませんでした。その開示を求めるのが、ISO(国際標準化機構)が発表したISO30414です。

この記事では、ISO30414について、定義や目的などの基本知識から主な項目、背景、メリットまで詳しく解説します。

ISO30414とは?

ここでは、ISO30414とは何かを理解していきましょう。定義、目的、活用シーンを解説します。

定義

ISO30414とは、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が2018年に発表した人的資本の情報開示に関するガイドラインです。後の2020年にはSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に人的資本の情報開示を義務化しています。

そもそもISOとは、スイス・ジュネーブにある非政府機関で、様々な規格を認証している機関です。例えば、非常口のマークはISO7010、カードのサイズはISO/IEC7810、ネジはISO68、組織のマネジメントシステムについては品質マネジメントシステムはISO9001、環境マネジメントシステムはISO14001と定めています。ビジネスに関わるものでは、情報セキュリティをISO27001、労働安全衛生をISO45001と定めるなど、規格が多くあるのが特徴です。「ISO」は国際的な表記であり、日本では国家規格として「JIS」で表記されることもあります。

目的

人的資本は、経済学の用語ではヒューマンキャピタル(Human Capital)と呼ばれ、人間が持つ能力を資本として捉える考え方です。これまでも経営資源としてモノとカネの情報開示は行われていましたが、ヒトに関する透明性の確保が重要視され始めています。統合報告書などに記載する企業もあったものの、基準や書式が統一されておらず、そもそも報告しない企業もあるなど、取り組みが浸透しているとは言えませんでした。

そこで、組織やステークホルダーがヒトについて定性的・定量的に把握できるように、ISO30414によって基準の明確化が図られています。社外から一目で人的資本の状況を把握できるだけではなく、自社の状況を過去と比較するなど、経営改善にも役立てることが可能です。

また、ISO30414には、企業経営の持続可能性をサポートする狙いもあります。人的資本の状況をわかりやすくデータ化することによって、効果的な人材戦略を立てやすくなります。人材にとっても、データを確認することで自社で成長できるかを考えたり、転職先の取り組みをチェックしたりするなど、働き方や転職先の検討などへのメリットが多いです。

活用されるシーン

ISO30414は、様々な企業で活用されています。ガイドラインに沿って準備をすることは、社内外からの信頼を得るために重要な取り組みです。

上場企業においては、企業の信頼性を維持したり、グローバル展開に向けて準備を進めたりするために、ISO30414を適用する必要があります。これから上場を目指す企業や中小企業にとっても重要で、投資家へのアピールや取引での信頼獲得にISO30414は不可欠になってくるでしょう。

ISO30414の項目

ISO30414の項目は、以下の通りです。

  • Costs(費用)
  • Diversity(ダイバーシティ)
  • Leadership(リーダーシップ)
  • Organizational culture(組織風土)
  • Organizational health, safety and well-being(組織の健康や安全、幸福度)
  • Productivity(生産性)
  • Recruitment, mobility and turnover(採用、異動、離職率)
  • Skills and capabilities(スキル、能力)

それぞれの領域の中でもさらに細かく項目が分かれています。内容を詳しく見ていきましょう。

Costs(費用)

Costsでは、人事で発生するコストについて項目が設定されています。

  • Total workforce costs(総人件費)
  • External workforce costs(外部人材費)
  • Ratio of the average salary and remuneration(平均給与、報酬比率)
  • Total costs of employment(雇用費用)
  • Cost per hire(採用費)
  • Recruitment costs(採用・異動費)
  • Turnover costs(離職費)

Diversity(ダイバーシティ)

Diversity(ダイバーシティ)は、多様性に関する領域です。以下の項目が設けられています。

  • age(年齢)
  • gender(性差)
  • disability(障がい)
  • other indicators of diversity(その他)

Leadership(リーダーシップ)

ここでは、リーダーに関わる項目を設定しています。

  • Leadership Trust(リーダーへの信頼)
  • Span of Control(管理している従業員数)
  • Leadership development(リーダーシップの開発)

Organizational culture(組織風土)

従業員の満足度や組織文化など、組織に関わる項目となっています。

  • Engagement/satisfaction/commitment(エンゲージメント/満足度/コミットメント)
  • Retention rate(リテンション率)

Organizational health, safety and well-being(組織の健康や安全、幸福度)

健全な経営ができているかについて、けがやアクシデントなどについて記載する項目です。

  • Lost time for injury(けがによって失った時間)
  • Number of occupational accidents(アクシデントの数)
  • Number of people killed during work(業務中の死亡者数)
  • Percentage of employees who participated in training(研修に参加した従業員の比率)

Productivity(生産性)

生産性に関して、2つの項目を設定しています。

  • EBIT/revenue/turnover/profit per employee(EBIT/収益/売上/一人当たりの利益)
  • Human Capital ROI(人的資本ROI)

Recruitment, mobility and turnover(採用、異動、離職率)

採用や異動、離職について、14の項目を設けています。

  • Number of qualified cadidates per position(空いているポジションの候補者数)
  • Quality per hire(入社後の期待に対するパフォーマンス)
  • Average length(ポジションを補充するまでの平均期間)
  • Transition and future workforce capabilities assessment(将来的な能力の評価)
  • Percentage of positions filled internally(社内人材で補充できるポジションの比率)
  • Percentage of critical business positions filled internally(社内人材で補充できる重要なポジションの比率)
  • Percentage of critical business positions(重要なポジションの比率)
  • Percentage of vacant critical business positions in relation to all vacant positions(重要なポジションの空き比率)
  • Internal mobility rate(社内異動比率)
  • Employee bench strength(従業員の層の厚さ)
  • Turnover rate(離職率)
  • Voluntary turnover rate(自主退職率)
  • Voluntary critical turnover rate(重要な自主退職率)
  • Exit/turnover reasons/leaving employment by reason(退職理由)

Skills and capabilities(スキル、能力)

スキルや能力について、3つの項目を設けています。

  • Total developing and training costs(人材開発費用)
  • Learning and development(学習・開発)
  • Workforce competency rate(労働力のコンピテンシー比率)

人的資本の情報開示が必要とされる背景

人的資本の情報開示が必要とされた背景には、以下のような要因があります。

  • ESG投資に関心が高まっている
  • 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の開催
  • 人材版伊藤レポートの発表

なぜISO30414が求められたのかを正しく理解していきましょう。

ESG投資に関心が高まっている

ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の略語で、これに関する投資をESG投資と言います。利益だけではなく、環境や社会への配慮・投資、適切な情報開示を行うことによって、持続的な成長を目指す取り組みです。

2015年に国連サミットで採択されたSDGsのように、世界はサスティナビリティを重視した社会をつくる方向に舵を切りました。企業経営にも持続可能というキーワードは関わりが深く、環境や社会に貢献していることによって、社会的な評価、投資家からの興味を得やすくなっています。多くの企業がESG投資を進めており、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の部分でISO30414の必要性が高まっているのです。

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の開催

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は、上場企業のコーポレートガバナンスを強化すること、投資家と健全な関係を構築することを目指して、設けられた会議です。

コーポレートガバナンスコード、投資家と企業の対話ガイドラインが策定され、情報開示や投資家との関係において、経営資源の明確な開示やステークホルダーへのわかりやすい説明の必要性などが盛り込まれました。これらには人的資本の開示も含まれており、日本でISO30414が注目されるきっかけになったと考えられています。

人材版伊藤レポートの発表

経済産業省は、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」を発表しました。ESG投資や人的資本の情報開示に通ずる内容が多くあり、ISO30414の重要性を広く知らせる報告となっています。

「持続的な企業価値の向上と人的資本」「経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割」「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素 」という3章で構成されているので、気になる方はぜひ目を通してみてはいかがでしょうか。

ISO30414導入のメリット

ISO30414を導入するメリットは、主に3つあります。

  • 透明性の高い経営を実現できる
  • 戦略的に人事を進められる
  • HRテクノロジーを導入しやすくなる

自社の課題や弱みと照らし合わせて、メリットを把握し導入を検討しましょう。

透明性の高い経営を実現できる

従来から開示されていたモノ・カネに加えて、ヒトについて情報を明らかにすることで、さらに透明性の高い経営を実施できます。これまでは人的資本が社外からわからないことがあり、明確な評価基準にはなっていませんでした。

人的資本を定性的かつ定量的にデータ化・開示することにより、確かな情報から社外の評価を得ることができます。ステークホルダーからの評価を得られれば、企業の価値は向上していくでしょう。

戦略的に人事を進められる

人的資本を定性的かつ定量的に開示することは、企業自体にもメリットがあります。ヒトに関する状況が明確になることで、人的資本の状況に合った対策を講じることが可能です。

中でも、「戦略人事」の必要性が高まっている人事領域では、ISO30414をきっかけにした情報整理が大いに役立ちます。強みを伸ばしたり、課題をいち早く解決したりすることで、人事が活性化するはずです。

HRテクノロジーを導入しやすくなる

人事に導入されつつあるHRテクノロジーは、生産性の向上などメリットがある一方で、個人情報の取り扱いには注意が必要です。

ISO30414に沿った情報開示は、個人情報の活用方法やプライバシーの取り扱いを社内外へ周知することにつながります。情報保護に理解を得られれば、HRテクノロジーを導入しやすくなるでしょう。

ISO30414への取り組み事例

ISO30414に対する取り組みは、日本よりも欧米で進んでいるのが現状です。ISOによる策定を皮切りに、米国証券取引委員会による上場企業への人的資本開示の義務化を行いました。

日本では、欧米の動きを受けて、人材版伊藤レポートの発行、コーポレート・ガバナンスの改定などを実施し、統合報告書での人的資本に関するKPIが占める割合が増加傾向にあります。

日本企業の具体的な取り組みとして、三浦工業株式会社では女性のキャリア形成支援の一環として、有価証券報告書にて「直前5カ年の女性役職者数および比率」を開示しました。第一生命ホールディングス株式会社では、ダイバーシティの推進・企業価値の向上を目指す中で、「非財務情報ハイライト」を有価証券報告書で開示しています。

まとめ

ISO30414によって、モノ・カネに加えて、ヒトについても情報開示が行われるようになっています。現在、日本には認証制度や適用義務はないものの、米国証券取引委員会が上場企業に情報開示を義務化したように、日本にもその動きは広がるでしょう。

ISO30414に沿った取り組みはステークホルダーの信頼を獲得したり、戦略人事を実現したりするなど、多くのメリットがあります。重要性が増すと考えられるISO30414に対して、早め早めに準備を進めていきましょう。

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