コアコンピタンス経営の進め方|実践につながる成功事例・分析方法
企業は熾烈な競争社会の中に存在しており、他社に対して優位に立つためには、自社の独自性や強みを前面に打ち出すことが必要です。競合他社と差別化を図り、他社に簡単に真似されない能力のことを「コアコンピタンス」と言います。
本記事では、「自社のコアコンピタンスを知りたい」「コアコンピタンス経営の成功事例を自社にも活かしたい」といった方に向け、コアコンピタンス経営の進め方や成功の具体例、コアコンピタンスを分析する方法について解説します。
コアコンピタンスとは?
コアコンピタンスとは、他には真似できない能力、競合他社に対して優位になる能力のことです。ロンドンビジネススクール教授G・ハメル氏とミシガン大学経営大学院教授C・K・プラハラード氏の共著『コア・コンピタンス経営』において、「顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術」と説明され、広く知られていきました。
コアコンピタンスを軸にした経営手法をコアコンピタンス経営と呼びます。模倣されない確固たる能力を核としているため、他社に真似されたり、代替商品が現れたりするリスクが少なく、希少性を生かして長く市場で活躍することが可能です。
ケイパビリティとの違いとは
コアコンピタンスと並んで、企業の強みをテーマにした概念に「ケイパビリティ」があります。ボストンコンサルティンググループのジョージ・ストークス氏、フィリップ・エバンス氏、ローレンス・E・シュルマン氏による論文『Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy』において、「コアコンピタンスがバリューチェーン上における特定の技術力や製造能力を指すのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織能力である」と言及しました。
バリューチェーンとは、製品の製造に関わるすべての活動を連鎖として捉える考え方です。例えば、ある商品があったとして、他社に真似できないデザイン性の高さや独自の技術など特定の強みはコアコンピタンスと言います。一方、ケイパビリティは、製品をつくるにあたって、発揮される組織力、優れたビジネスプロセスなど全体の強みを指すのが、コアコンピタンスとの違いです。
コアコンピタンス経営とは
コアコンピタンス経営は、コアコンピタンスを中核とした経営戦略を表す言葉です。コアコンピタンスは他社には簡単に模倣できないため、差別化が重要な意味を持ちやすいモノづくりを主な事業としている企業にとって最適です。
コアコンピタンス経営はG・ハメル氏とC・K・プラハラード氏の共著、『コアコンピタンス経営』において提唱された考え方であり、これを成立・推進させるためには以下の3つの条件が必要だと定義されました。
- 顧客に利益をもたらす自社能力
- 競合相手に真似されにくい独自の能力
- 複数の商品・市場に応用が可能な自社能力
以下、必要な条件について具体的に確認していきましょう。
顧客に利益をもたらす自社能力
他社を圧倒するほどの独自の能力であったとしても、それは顧客に利益やメリットをもたらすものでなければなりません。コアコンピタンスを構成する第1の条件は、顧客に利益をもたらす能力であることです。
事業は顧客が存在することで成立するので、その顧客にとってプラスになる製品やサービスを開発できなければ、事業の維持や規模の拡大は見込めないのです。これは、独自の技術を使って顧客にとって利益となる商品・サービスを開発できる力やノウハウとも言い換えられます。
競合相手に真似されにくい独自の能力
競合他社に簡単に模倣されない能力であることが、コアコンピタンスを構成する第2の条件です。
自社が独自の技術を持っていてもそれが簡単に真似されるようなものであれば、すぐに同じような商品・サービスを展開する企業の出現が想定できます。そうなってしまうと、もはや独自の能力とは言えません。
他社に対して圧倒的優位性を確保するための能力とは、誰もが容易に思いつけるものではない斬新な能力である必要があるのです。また、長年の積み重ねによって熟練した能力は、他社が簡単に真似できるものではないのでコアコンピタンスになり得ます。
複数の商品・市場に応用が可能な自社能力
コアコンピタンスを構成する第3の条件は、コアコンピタンスに該当する能力が複数の商品や市場に活かせる性質のものであることです。
市場は常に動いており、現在売れている商品が今後も売れるとは限らないので、企業は常に新しい商品の開発を行います。特定の市場で1つの商品を作るためにしか能力を使えないのであれば、その能力は市場においての価値をなくすでしょう。
異なる商品や市場でも通用する普遍的な能力が、コアコンピタンスとして成立するのです。
コアコンピタンスの成功事例10選
誰もが知る大企業には、競合他社にはないコアコンピタンスがあります。コアコンピタンスを見出す際には、他社をヒントにするのも方法の1つです。ここでは、10社のコアコンピタンスを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
- Apple
- 本田技研工業株式会社
- トヨタ自動車
- ソニーエンジニアリング株式会社
- シャープ株式会社
- 株式会社セブン&ホールディングス
- 富士フイルム株式会社
- 味の素株式会社
- ワコール
- カプコン株式会社
Apple
iPhoneやiPadなどの製品が人気のAppleには、世界中に多くのファンがいます。新世代の商品が出るたびに買い替える人もいるほどで、スマートフォンやPC市場で圧倒的支持を得ているブランドと言えます。
支持の裏にあるのは、シンプルながらもスタイリッシュなデザインや独自のインターフェースです。複雑なデザインではないものの、言語化やデータ化が難しく、顧客を惹きつけるデザイン性はゆるがないコアコンピタンスと言えるでしょう。
本田技研工業株式会社
本田技研工業株式会社は、自動車メーカー・ホンダとして世界的な地位を確立しています。コアコンピタンスは高性能エンジンの製造技術であり、技術を生かしてバイク製造から自動車製造へとシフトしました。
自動車だけではなく、航空機や除雪機、草刈り機などにも応用することで、活躍のフィールドを広げています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、「トヨタ生産方式」と呼ばれる生産システムをコアコンピタンスに位置づけています。
各工程で必要なものしかつくらない、異常が発生したときに生産を停止し不良品をつくらないという2つの柱のもと、効率化を追究するシステムです。無駄を徹底的に排除することで、経営を健全化し、良いものを早く顧客に届けることを可能にしています。
ソニーエンジニアリング株式会社
ソニーエンジニアリング株式会社では、ソニー製品の設計・開発を担当しています。コアコンピタンスをあらゆる電化製品の開発に不可欠な技術とし、電気設計やソフトウェア設計などの分野で、コアコンピタンスを見出しています。
それぞれの分野に真似できない能力を持っているため、あらゆる製品開発に応用が可能です。移動可能性に優れており、ソニーの多様な商品展開を支えています。
シャープ株式会社
さまざまな電化製品を生み出しているシャープ株式会社のコアコンピタンスは、液晶技術です。液晶とは、外からの刺激で分子の並び方が変わる仕組みで、主に液晶ディスプレイなどで活用されています。
今でこそ聞く機会の多い技術ですが、世界で初めて液晶電卓を生み出したのはシャープです。コアコンピタンスをベースに、8K技術やIGZO技術など、さらなる進化を続けています。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、コンビニエンスストアや総合スーパーなど、さまざまな事業を展開しています。
幅広い事業展開のベースになっているのは、購買量から得たニーズを汲み取る力や店舗網などのコアコンピタンスです。小売業はもちろん、セブン銀行といった金融サービスにもコアコンピタンスが生かされています。
富士フイルム株式会社
富士フイルム株式会社は、かつては写真フィルムの製造がメインでしたが、フィルムカメラの衰退を機に事業を転換しました。
写真フィルムなどで培った技術の1つである、ナノテクノロジーをコアコンピタンスとし、ヘルスケアやマテリアルズ、イメージングなどの分野で新しい事業を展開しています。
味の素株式会社
味の素株式会社では、アミノ酸の研究によって確立した「先端バイオ・ファイン技術」をコアコンピタンスとしています。
微生物や酵素を活用する「バイオテクノロジー」、さまざまな原料から有用物質を生み出す「ファイン・ケミカル」、栄養・生理機能などを評価する「機能性評価技術」を用いて、高品質な素材の開発を可能にしました。国内はもちろん、グローバルなネットワークも構築し、広く連携を進めています。
ワコール
ワコールは、女性用下着を中心に衣料品を販売しているメーカーです。今でこそ女性用下着といえばワコールというイメージが確立していますが、かつてはそれほど知名度がありませんでした。
当時希少性が高かった女性用下着に特化した製品開発、販売方法の絞り込み、下着をファッションの1つと考えた姿勢・ビジョンがコアコンピタンスとなり、確固たるブランド力が育っていったと言えます。
カプコン株式会社
カプコン株式会社は、人気ゲームを多数展開する企業です。企業の強みを知的財産、開発力、ガバナンスとし、中でもコアコンピタンスとして人材戦略を確立しています。
オリジナリティのある作品を生み出す開発力、最新テクノロジーに対応する技術力を確保するために、多様な人材の活用や働きやすい職場づくりに力を入れています。国内ゲーム企業の中では、最大規模の開発人材を持っているのが特徴です。
自社のコアコンピタンスを見極める5つのポイント
コアコンピタンスをゼロから考えようとすると、上手く思い浮かばない場合があります。見つかったとしても、十分に検証していなかった場合、本当の強みからズレていることもあるでしょう。
確固たるコアコンピタンスを見出すためには、以下の5つの視点を大切にしましょう。視点ごとに詳しく解説していきます。
- 模倣可能性(Imitability)
- 移動可能性(Transferability)
- 代替可能性(Substitutability)
- 希少性(Scarcity)
- 耐久性(Durability)
模倣可能性(Imitability)
模倣可能性(Imitability)は、文字通り模倣する可能性がどのくらいかという視点です。コアコンピタンスを見出す際は、模倣される可能性が低いこと、他社が追いつくのが難しいことが重要になります。分析の過程で模倣可能性があるとわかった場合には、再度コアコンピタンスを分析し直すことが必要です。
移動可能性(Transferability)
移動可能性(Transferability)とは、他の分野にも応用できるといった汎用性のことを指します。特定の製品に限らず、さまざまな製品や分野に応用できる技術は、環境やトレンドが変化しても活用し続けることが可能です。
代替可能性(Substitutability)
代替可能性(Substitutability)とは、他の製品に取って代わられないかという視点です。自社を超えるものが簡単に現れたり、次々に競合が出てきたりするものは、コアコンピタンスとは言えません。他社に真似できないオリジナリティこそがコアコンピタンスです。
希少性(Scarcity)
コアコンピタンスを見出すためには、市場で稀であることを表す希少性(Scarcity)が重要です。市場において珍しいこと、特性に希少価値があることなどが、希少性を満たしていると言えます。
模倣可能性(Imitability)と代替可能性(Substitutability)に似ている部分も多く、模倣可能性や代替可能性が低ければ、希少性も満たしていることが多いです。
耐久性(Durability)
耐久性(Durability)とは、競争優位を長期間保つことができるかという視点です。耐久性のあるブランド価値や信頼を持っていれば、長期間に渡って市場で優位に立つことができます。
コアコンピタンスを分析する手順
コアコンピタンスを見出すためには、分析が必要です。丁寧に分析することによって、自社にしかないコアコンピタンスを発見できます。
コアコンピタンスの分析は、以下の手順で行うのが一般的です。
- 強みを洗い出す
- 強みを適正に評価する
- コアコンピタンスを絞り込む
強みを洗い出す
コアコンピタンスになる可能性がある強みを洗い出すところから始めます。自社で持っている技術、ノウハウ、製品、サービス、人材などを幅広くリストアップすることが大切です。
一見コアコンピタンスにならないと思っている要素が、実は特筆すべきこともあるので、内容にこだわらずに発想していきましょう。
強みを適正に評価する
洗い出した強みを評価し、コアコンピタンスになりうるかを吟味していきます。ここでは、上述した5つの視点を満たしているかが重要です。
それに加えて、顧客や社会に価値をもたらすかを考えましょう。独自性が高くても世に受け入れられなければ、コアコンピタンスとは言えません。顧客の満足や社会の良い変化などにつながる強みがコアコンピタンス候補になります。
コアコンピタンスを絞り込む
コアコンピタンスとは、核となる能力なので、複数の強みから一つに絞り込む必要があります。現在の市場で価値があることはもちろん、5つの視点を満たしていること、将来性があることなどを基準に、ビジネスの中核を担うものかを丁寧に絞り込むことが大切です。
コアコンピタンスを確立するためには
コアコンピタンスを確立するには、以下の5つの注意点をおさえておきましょう。
- 差別化された独自技術を持つこと
- 企業としてのビジョンを明確にすること
- 長期的視点で考え、取り組むこと
- 常に進化し新たな要素を取り入れること
- 時代の変化に対する応用力を持つこと
差別化された独自技術を持つこと
コアコンピタンスは、他社には簡単に真似できない独自技術や能力である必要があります。そのため、自社独自の技術を持つように技術開発を続けることが大切です。
また、独自技術を見出すためには、まず自社の強みを把握し、それらを列挙してコアコンピタンスを構成する3つの条件に合致するかを判定しましょう。その上で、さらに上記の分析手順で挙げた5つの基準に照らし合わせて判断します。
差別化された技術を持つことは、他社が真似できないという部分で必要になる要素ですので、必ず強みの分析から独自技術の選定を行いましょう。
企業としてのビジョンを明確にすること
続いて、企業として何を目指すかというビジョンを明確にします。コアコンピタンスは数年程度の時間で確立できるものではなく、10年以上の長期的スパンを見据えて紡ぎ出すものです。そのため、まずは企業としてのビジョンをはっきりと打ち出すことが必要です。
ビジョンを立てる際には自社が社会や顧客に対し、どのように貢献するのかという点を課題として考える必要があります。最初に社会への貢献を軸にしてビジョンを立てることで、顧客や社会に貢献できる企業として成長していけます。
長期的視点で考え、取り組むこと
企業が大きな結果を出すためには短期間では難しくなっています。コアコンピタンスを確立させるための取り組みとして、社内の業務効率化やアイデア創出のしやすい環境づくりや競合との比較・リサーチに力を入れましょう。
さまざまな視点から改善していくことが、コアコンピタンスの確立につながる取り組みなのです。
常に進化し新たな要素を取り入れること
コアコンピタンスを確立した後でも、他社に真似される可能性はゼロではありません。そのため、常に技術投資や人材への投資などを続けることが大切です。
つまり、自社独自の技術を研究し続けてさらなる発展につなげることが最も重要なのです。特定の部門や特定のエンジニアだけでは独自技術の発展は難しいので、社内の部門の枠を超え、社員同士が積極的にアイデアを出し合ったり、発言したりすることが大事です。
時代の変化に対する応用力を持つこと
コアコンピタンスを確立した現時点では便利なものが、時代の変化により不便になることも考えられます。そのため、従来のサービスや商品そのものを改善するだけでなく、時代の変化に対して新しいサービスを提供することが大切です。
つまり、時代の変化に柔軟に対応していくことが必要なのです。
コアコンピタンスは中小企業においても重要なテーマ
現代は技術的変化の早い時代だからこそ、企業が生き抜くためには他社との差別化の必要性が増しています。コアコンピタンスはそのための武器として機能してくれる重要なテーマです。
自社のコアコンピタンスをいかに確立させ、それをいかに顧客へと伝えられるかが企業の命運を左右すると言っても過言ではありません。
まとめ
コアコンピタンスとは、自社の事業を競合他社と差別化し、他社に真似されない能力のことを言います。コアコンピタンスの確立には、自社の強みを徹底的に分析し、社内の業務効率化やアイデアが出やすい環境の整備、競合リサーチなどの組織的な動きが必要です。
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コアコンピタンスを確立して他社に対する効果的な武器として活用するための一助とすべく、関連記事を参考にしつつ導入を検討してはいかがでしょうか。