ムーンショット目標とは?9つの指標と実際の取り組み事例を解説
この記事では、ムーンショット目標における9つの指標、取り組み事例を解説します。詳細が気になる方は、ぜひ参考にしてみてください。
ムーンショット目標とは
ムーンショット目標とは、内閣府における科学技術・イノベーション分野の政策の一つであるムーンショット型研究開発制度で定められた目標です。
従来の技術の枠を超えた、大胆かつ革新的な研究開発を推進するためにプログラムが組まれ、取り組みの軸として9つの目標が設定されています。
ムーンショットという言葉の由来は、1961年にアメリカのジョン・F・ケネディ大統領が「1960年代が終わる前に月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」と発言した、いわゆる「アポロ計画」です。実現は難しいものの、達成したときに大きなインパクトを残すという点で、月面着陸を果たしたアポロ計画を元に、ムーンショットと名付けられました。
ビジネス用語としても一般的になっており、Apple社で当時CEOを務めていたジョン・スカリー氏の著書『ムーンショット』がきっかけで広く知られつつあります。
ムーンショット目標が設定された背景
ムーンショット目標が設定された背景には、世界が直面している課題、日本が置かれている状況などがあります。背景を知ることで、ムーンショット目標に対する理解を深められるはずです。
ムーンショット計画の背景には、日本・世界における社会問題があります。年々進展している少子高齢化や激甚化する自然災害、地球温暖化など、様々な問題がある中で、豊かな未来をつくっていかなければいけません。小さな変化はもちろん、大きなインパクトが必要とされ、ムーンショット目標がひとつの指標となっています。
世界では、地球温暖化といった共通の課題があり、同じ条件の元、常識を覆す研究開発が推進されています。現状、日本は欧米や中国に比べると遅れを取っているため、ムーンショット目標を掲げることで、日本発のイノベーション創出を目指しています。
9つのムーンショット目標
ムーンショット目標は、以下の9つです。
- 人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
- 超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
- AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
- 地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
- 未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
- 経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
- 主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
- 激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
- こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現
それぞれの目標を達成することで、社会や環境、経済への大きなインパクトを期待できます。目標について、一つひとつ詳しくチェックしていきましょう。
人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
ムーンショット目標1では、アバターとロボットを組み合わせたサイバネティック・アバター生活の実現を目指しています。サイバネティック・アバターとは、身体能力や認知能力、知覚能力などを拡張する技術です。
生産年齢人口が減少していること、ライフスタイルに応じた社会参画などを実現するために、開発が進められています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
ムーンショット目標2では、疾患をこれまでよりも早く予測・予防できる社会を目指しています。
人間の個体機能の変化を総合的に分析することによって、疾患の抑制・予防や発症してから健康な状態に戻す方法の確立などをターゲットにしているムーンショット目標です。
≫ 内閣府|ムーンショット目標2 2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
ムーンショット目標3では、AIやロボットとの共生に向けて取り組みが進んでいます。人と同等以上の身体能力を持つAIロボット、様々な分野で活躍するAIロボットなどの開発が主なターゲットです。
現在もAIやディープランニングが発達していますが、その限界を打破し、さらなるAIやロボットのイノベーションを目指しています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標3 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
ムーンショット目標4では、世界共通の課題である、地球温暖化や環境汚染の解決を目指しています。
資源の循環を可能にする商品の普及、温室効果ガスの循環技術開発、環境汚染物質の無害化技術の開発などが主な取り組みです。
≫ 内閣府|ムーンショット目標4 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
ムーンショット目標5は、微生物や昆虫などの生物機能の活用を目指す目標です。完全資源循環型の食料生産システム、食料消費の解決法などの開発・普及に向けて取り組みが始まっています。
化学物質への依存によって、生物や自然の循環機能が崩壊していると言われており、負のスパイラルに陥っているのが現状です。本来の循環機能を取り戻すべく、ムーンショット目標5が設定されています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標5 2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
ムーンショット目標6は、様々な分野の発展に役立つ誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現を目指すターゲットです。
2030年、2040年、2050年と段階的なターゲットを設定し、規模や機能をブラッシュアップしていく計画が立てられています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標6 2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
ムーンショット目標7では、持続可能な医療・介護システムの実現を目指しています。人生100年時代で人生を楽しむことができるように、疾患の発症・重症化を防ぐ技術の開発、どこからでも必要な医療にアクセスできるネットワークの構築などがターゲットです。
QOLを改善するために、負荷の少ないリハビリ技術、生体制御システムの開発なども進められています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標7 2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
世界的に気候変動が激しくなっており、自然災害が目立ってきています。ムーンショット目標8は、自然災害を制御し安心安全な社会の実現を目指すものです。
自然災害のタイミングや範囲などを制御する、災害の操作によって被害を軽減するなどの取り組みを実証実験から開発を進めています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標8 2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現
ムーンショット目標9では、心に着目したターゲットです。心と結びつく要素や変化を可視化する技術の創出、サポートサービスの普及などを2050年までに達成することを定めています。
≫ 内閣府|ムーンショット目標9 2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現
ムーンショット目標への取り組み事例
ムーンショット目標を達成するためには、国単位の取り組みはもちろん、企業や個人での取り組みも必要になります。ここでは、企業の主な取り組み事例を紹介します。
- トヨタ自動車
- 株式会社日立製作所
- 日本医療研究開発機構
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、ムーンショット研究開発の一環として、「Woven City」を建設しています。自動運転技術やロボットなどの実証実験を行う街として構想され、未来都市のモデルケースとして期待されているプロジェクトです。
トヨタ自動車の従業員やセカンドライフを送る夫婦、プロジェクトに参加する科学者、パートナー企業の担当者などが住むことができると言われています。
≫ 自動運転LAB|トヨタWoven City、初期住民は8種類!自動運転を試す実証都市、いつオープン?
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所は、ムーンショット目標6を実現するべく、大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発に取り組んでいます。
半導体の回路集積化技術を活用し、シリコン量子ビットの大規模化・高集積化を実現することで、高集積性・低消費電力を兼ね備えた量子コンピュータの実現を目指すプロジェクトです。
≫ 国立研究開発法人科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業|大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発
日本医療研究開発機構
日本医療研究開発機構では、ムーンショット目標7の実現に向けて、研究開発を実施しています。
プロジェクトマネージャーの公募を行い、様々な分野で研究開発を行っているのが特徴です。ミトコンドリア先制医療、組織胎児化による複合的組織再生法の開発など、先進的な医療の創出を目指しています。
まとめ
ムーンショット型研究開発制度では、9つの目標を設定し、様々な分野で革新的なビジネスモデルやイノベーションの創出を目指す取り組みが行われています。
様々な企業で取り組みが始まっており、プロジェクトを行うことは豊かな未来の実現はもちろん、企業価値の上昇にもつながるでしょう。目標の詳細や事例をチェックして、理解を深めてみてください。