ワークシェアリングのメリット・デメリット
働き方が多様化しており、リモートワークを選択したり、フリーランスとして仕事をしたりする人も増えています。多様化の動きのひとつとして、ワークシェアリングも知っておきたい言葉です。
この記事では、ワークシェアリングのメリット・デメリットに加えて、種類や導入方法まで詳しく解説します。全容を正しく理解し、自社への導入を検討しましょう。
ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、一人の仕事を複数の人で分けて負担を軽減しようという考え方です。例えば、ある資料の作成を一人の社員に任せた場合、一人でこなすために時間や労力がかかります。ワークシェアリングを行った場合は、複数の社員が資料作成に関わるため、一人ひとりに負担が分散されて、生産性アップを期待できるのです。
ワークシェアリングは世界的にも注目されている概念で、日本よりも早く取り入れられています。その背景のひとつが失業率の高さです。ワークシェアリングによって、1つの仕事を切り分けることで雇用機会が生まれ、失業率の改善に効果を発揮しました。
また、過酷な労働による心身の疲弊や健康被害もワークシェアリングの普及に関わりがあります。一人に大きな負担がかかっていた場合、心身にストレスやダメージが加わり、コンディションを崩してしまうリスクが高く、それをきっかけに退職や休職に至るケースも考えられます。ワークシェアリングで負担が軽減されれば、健康被害のリスクを下げることが可能です。
日本においては、以前から提唱されているものの、現状それほど定着していません。労働者の種類による賃金格差が大きいこと、業務内容が曖昧なことなどが原因と考えられています。
ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングは、大きく4種類に分類されます。それぞれ目的が異なるので、どのタイプが自社にマッチするかをイメージしてみましょう。
- 雇用維持型(緊急避難型)
- 雇用維持型(中高年対策型)
- 雇用創出型
- 多様就業促進型
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)は、予期せぬ景気悪化や社会の変化などによって、雇用機会が減る場合に行われます。
一人あたりの労働時間をそのままにすると、余剰人員が生まれてしまう状況でも、ワークシェアリングで仕事を細分化することによって、雇用を維持できるのがメリットです。
人材の流出を防ぐことができ、状況が改善したときに人員を維持して、事業を再度前に進めることができます。
雇用維持型(中高年対策型)
雇用維持型(中高年対策型)は、中高年層の雇用を確保するために実施されます。最適な仕事を確保し、一人ひとりの労働時間を短縮することによって、若手と中堅に加えた雇用を維持できるのが特徴です。
雇用維持型のワークシェアリングを実施することで、定年の延長、中高年層の再雇用なども実現できます。
雇用創出型
雇用創出型は、失業者・求職者を対象にしたワークシェアリングです。失業者をパートタイムや短時間労働者として積極的に雇用し、在籍している社員の負担を軽減する狙いがあります。
多様就業促進型
多様就業促進型は、従来の働き方に縛られず、多様な働き方で人材を雇用するワークシェアリングのタイプです。
例えば、育児や介護などでこれまで通りフルタイムで働けなくなった場合、勤務形態に柔軟性がないと人材は離職してしまいます。パートタイムやフレックスタイムなどに切り替えて雇用することによって、優秀な人材を確保しながら、本人にとっても仕事と生活を両立できるのです。
ワークシェアリングのメリット
ワークシェアリングには、企業、人材それぞれにメリットをもたらします。どのようなメリットがあるのか、企業側と人材側に分けて見ていきましょう。
- 【企業】人件費を削減できる
- 【企業】業績悪化に対応しやすい
- 【企業】職場環境を改善できる
- 【企業】企業イメージが良くなる
- 【人材】ワークライフバランスを維持しやすい
- 【人材】働ける職場が増える
【企業】人件費を削減できる
一人に負担がかかっている状態だと、残業や休日出勤によって人件費が多くなる傾向があります。そのような人材が多ければ多いほど、発生する人件費が大きいです。
ワークシェアリングによって労働時間が短縮されると、人件費の無駄を省くことができます。適切な労働時間に調整しつつ、必要になった分適切な待遇で人材を補充できるのがメリットです。
【企業】業績悪化に対応しやすい
景気変動や産業構造の変化などの要因で業績が悪化した場合、従業員を減らすという選択肢があります。ただし、一度人員を削減すると、状況が改善されたときに人員不足になる可能性が高いです。
ワークシェアリングでは、従業員数ではなく、仕事量や労働時間を調整します。そのため、従業員を維持したまま対応できるので、業績悪化にも柔軟に対処可能です。
【企業】職場環境を改善できる
ワークシェアリングに取り組む以前に、労働時間の超過や休日出勤などが常態化していた場合、職場環境の改善を期待できます。
労働時間が適切に調整されることによって、一人ひとりが心身に余裕を持って働けるでしょう。従業員のコンディションが整うことは、生産性やモチベーションの向上にもつながります。
【企業】企業イメージが良くなる
ワークシェアリングに取り組んでいるということは、企業イメージにおいてプラスに働く場合があります。雇用を守る姿勢や多様な働き方を認める姿勢が伝われば、業界や求職者などに良い印象を与えられるでしょう。
その結果、商品・サービスのシェアが増えたり、取引先に信頼されたり、多様な人材を採用しやすくなったりするなど、さまざまなメリットを期待できます。
【人材】ワークライフバランスを維持しやすい
ワークシェアリングによって一人ひとりの労働時間が短縮されるので、プライベートの時間が増えます。
仕事とは別の時間に、趣味を楽しんだり、家族との時間が生まれたりするなど、ワークライフバランスを維持しやすくなるのがメリットです。
仕事と生活を両立できることは従業員にとって嬉しいポイントであり、モチベーションアップや定着を期待できます。私生活での刺激が仕事に生かされる場面も増えるでしょう。
【人材】働ける職場が増える
ワークシェアリングの動きが広がれば、求職者は選べる職場が増えます。選択肢が増えることで、希望の職種に携わることができるチャンスも出てくるでしょう。
現在働いている人にとっても、業績悪化などによって職を失うリスクが少なくなります。働き続けられる安心感が生まれ、企業への定着率も上がるでしょう。
ワークシェアリングのデメリット
ワークシェアリングにはメリットがある反面、気を付けたいデメリットもあります。こちらも企業側、人材側からデメリットを詳しくチェックしていきましょう。
- 【企業】制度変更に時間と手間がかかる
- 【企業】一部コストが増加する
- 【企業】対象外の職種と待遇差が出やすい
- 【人材】従業員同士の関係が希薄になりやすい
- 【人材】給与が下がる可能性がある
【企業】制度変更に時間と手間がかかる
これまでの体制からワークシェアリングを導入するためには、時間と手間がかかります。細分化する業務の選定や従業員の説明・対応、給与計算の変更など、必要な作業や変更点は様々です。
ただ、時間をかけてステップをクリアしながら実施すれば、ワークシェアリングによる効果を期待できます。時間がかかることを想定して、計画的に導入を進めることが大切です。
【企業】一部コストが増加する
労働時間の短縮によって人件費の削減を期待できる一方で、雇用に伴う一部コストが増加するケースがあります。
ワークシェアリングで生まれた仕事への雇用をした場合、採用費や教育費、福利厚生費、社会保険料などのコストがプラスされる点に注意が必要です。
人件費だけではなく、どのようなコストがかかるかを細部まで把握し、採用計画を立てることが求められます。
【企業】対象外の職種と待遇差が出やすい
ワークシェアリングでは、対象となる業務とそうではない業務が発生する可能性があります。労働時間が短縮される職種、変更が行われない職種が生まれると、労働環境が改善される反面賃金が減るなど、待遇に差が出やすいのは気を付けたいデメリットです。
労働時間と賃金どちらを重視するかは人材によって異なります。大きな差が生まれるとトラブルが起きやすく、最悪の場合人材が流出するかもしれません。
やみくもに実施するのではなく、従業員目線で全体を把握して検討することが重要です。
【人材】従業員同士の関係が希薄になりやすい
一人ひとりの仕事がシェアされ、多くの従業員で業務を切り分けると、全体は把握しにくくなります。誰が何をしていて、どこまで進んでいるかがわからないと、従業員同士の連携が難しくなるおそれがあります。
コミュニケーションの活性化やスケジュール管理などに力を入れるなら、ワークシェアリングに合わせてコミュニケーション方法の改善も欠かせません。
【人材】給与が下がる可能性がある
ワークシェアリングの対象になった場合、労働時間が減る分、給与が下がる可能性があります。
ワークライフバランスを重視する従業員にとってはそれほど気にならないケースもありますが、給与面で不満を感じる従業員も出てくるでしょう。制度の変更を共有せずに給与ダウンが起きると、不満は出てきやすくなります。
従業員への影響を丁寧に説明した上で、福利厚生の充実や副業の許可など、デメリットをカバーできる提案を行いましょう。
ワークシェアリングの導入方法
ワークシェアリングを導入する際は、順序を押さえて推進することが大切です。導入事例を参考にしたり、補助金制度を活用したりすることも良い取り組みでしょう。ここでは、導入の流れを解説し、補助金制度や導入事例をご紹介します。
導入の流れ
ワークシェアリングを導入するためには、まず現状を把握する必要があります。どのような業務があり、どのくらいの人材で、どのくらいのコストがかかっているかを細部までチェックしましょう。
その上で無駄な業務をカットし、ワークシェアリングできるかを検討します。切り分けることでクオリティが下がってしまう仕事は対象から外し、誰が行っても同程度の成果を期待できる業務を対象にするのがポイントです。
その後、ワークシェアリングによる変更点がわかるマニュアルを作成し、従業員に目的や背景、メリットなどを共有します。導入して終わりではなく、効果測定や振り返りを欠かさず行い、PDCAを絶えず繰り返すことが重要です。
補助金制度を活用する
ワークシェアリングを浸透させるために、日本では補助金制度を整備しています。上手く活用することによって、人材採用や育成などのコストを軽減できるのがメリットです。
ワークシェアリングに伴って活用できる主な制度は、以下の3つです。
- 時間外労働等改善助成金
- 雇用調整助成金
- 人材開発支援助成金
時間外労働等改善助成金は、5つの助成金コースがあります。取り組む内容によって、コースが異なり、適用条件も変わってくるので注意が必要です。
- 時間外労働上限設定コース
- 勤務間インターバル
- 職場意識改善コース
- 団体推進コース
- テレワークコース
雇用調整助成金は、休業手当に充てる費用を補助する制度で、新型コロナウイルス感染症の影響でよく耳にするようになりました。景気変動によって事業を縮小しなくてはならなくなった企業にも適用されます。
人材開発支援助成金は、キャリア形成推進のために職業訓練を行った場合に助成を受けられる制度です。直接ワークシェアリングに関わる制度ではありませんが、将来的な実施や人員配置を考える上で、上手く活用できるでしょう。
参考:
厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」
厚生労働省「雇用調整助成金」
厚生労働省「人材開発支援助成金」
導入事例
ワークシェアリングは、日本よりも海外での導入事例が多いのが現状です。フランスでは、週35時間制を導入し、早期実施にインセンティブを設けたことで制度が浸透しました。労働時間が短縮されることによって、雇用者数が増えるとともに、短時間労働にも理解が生まれています。
アメリカでは、国単位での制度はないものの、企業単位でワークシェアリングが進んでいるのが特徴です。柔軟な働き方を実現し、社員同士で仕事のバランスを取っています。
日本では、自動車メーカーのマツダがワークシェアリングを2009年に実施しました。昼夜2交代制から夜間操業をストップし、労働時間の短縮に成功し、業績回復に向けて雇用を維持しながら事業を継続したのです。
まとめ
ワークシェアリングによって一人あたりの労働時間を短縮することで、負担を分散しながら雇用を生むことができます。
企業にとっては、人件費削減や労働環境の改善などのメリットがある一方で、制度変更に時間がかかることや一部コストの増加といったデメリットがあります。
人材に対しては、ワークライフバランスを実現しやすい半面、給与ダウンや生産性低下のリスクがある点には注意が必要です。
メリット・デメリットを詳しく理解して、ワークシェアリングの導入を検討してみましょう。