今話題のタレントマネジメントを詳しく解説します
従業員はそれぞれスキルや知識を持っており、一人ひとりが企業を支えるタレントです。タレントが持つスキルを最大限に生かすマネジメント手法をタレントマネジメントと言います。
この記事では、今話題のタレントマネジメントについて、注目されている理由やメリット・デメリットを詳しく解説します。
タレントマネジメントの意味
タレントマネジメントとは、企業の人材・従業員をタレントと位置づけ、経営資源として採用や配置などを工夫する人材マネジメントです。
人材に関わるあらゆる取り組みがタレントマネジメントであり、採用や配置はもちろん、育成、評価、モチベーション管理なども含まれます。
タレントという言葉から、優秀な人材や才能のある人材をイメージしがちではないでしょうか。いち早くタレントマネジメントを提唱した2002年にハーバードビジネス出版から発売された『ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争』では、タレントとはマネジメント人材を意味し、リーダーやマネージャーを指しています。
日本でも優秀な人材を対象にした人材マネジメントとして取り入れられていましたが、近年はすべての従業員を対象としてタレントマネジメントを実施する企業が増えているのが現状です。
ただし、全社員へのアプローチと特定のマネジメント人材へのアプローチのいずれかが正しいということではありません。企業の戦略や環境によっても相性があるので、企業に合った方法で実施することが大切です。例えば、全社員はもちろん、パート・アルバイトまで範囲を広げたり、マネジメント人材や優秀な人材に絞って業績アップを目指したりするなどの方法はどちらも正しく、企業に良い影響をもたらす可能性を持っています。
なぜ、タレントマネジメントが注目されているのか
タレントマネジメントが注目されている背景には、4つのポイントがあります。
- 少子高齢化による労働人口の減少
- グローバル化
- 働き方改革と働き方の多様化
- 技術革新
なぜタレントマネジメントが注目されているのかを理解していきましょう。
少子高齢化による労働人口の減少
内閣府が発表した「令和2年版高齢社会白書(全体版) 高齢化の現状と将来像」によると、令和元年10月日時点の総人口1億2,617万人のうち3,589万人が65歳以上であり、高齢化率は28.4%でした。昭和25年(1950年)の高齢化率はわずか5%でしたが、例年上昇を続けています。
高齢化率にともなって減少しているのは、15~64歳人口です。令和元年には総人口の59.5%となり、将来的にはさらに減少すると言われています。少子化も同時に進んでいるため、高齢者を支える現役世代・労働人口が減っていくのが大きな問題です。
これまでは、企業の成果を伸ばしたり、規模を大きくしたりしようとしたときに、人材を採用するのが方法の一つでした。しかし、労働人口の減少で採用が難しくなるとともに、限られた人材を獲得する競争が生まれ、人材採用は容易ではありません。
そこで、現在在籍している社員を育成して成果を出す、業務を効率化して成果に結びつけるといった方向にシフトしています。タレントマネジメントは、人材マネジメントを強化する手法として注目を集めていると言えるのではないでしょうか。
グローバル化
普段利用している店舗に海外製品が並んでいたり、海外発のサービスが日本でスタートしたりするなど、世界規模で企業競争が行われるようになっています。
新たに開発した商品に似たものが既に海外にあったり、ありきたりなアイデアであったりすると、たちまちグローバル競争で敗れてしまうでしょう。
グローバル化に立ち向かう企業の競争力は、これまで日本に根付いてきた新卒一括採用や年功序列などが弱めていると考えられています。入社後に新入社員を長い目で育てていく、年齢や勤続年数を評価に含めるといった考え方では、今まさに必要な競争力を身に付かない可能性があると言われています。
タレントマネジメントの導入は、タレントに注目した手法であり、従来の仕組みとは違った雇用によって競争力を高められる可能性があり、人事戦略のひとつとして検討する必要が出てきたと言えるでしょう。
働き方改革と働き方の多様化
日本政府が推進する働き方改革では、労働力を増やすこと、生産性を向上することなどを目指しており、中でも長時間労働の是正は注目されている狙いです。
長時間労働が是正されるのは、従業員にとっては心身の健康やワークライフバランスなどを実現しやすく、企業にとっても人件費を削減できるなどのメリットがあります。
ただし、これまでよりも労働時間が少なくなる場合、その時間で従来の仕事をこなさなくてはいけません。社員一人ひとりの生産性向上が求められており、タレントマネジメントは効果的な手法のひとつです。育成や配置などに力を入れることによって、是正された労働時間の中でも成果を実現しやすくなります。
また、働き方の多様化もタレントマネジメントが注目される理由の一つです。正社員にこだわらず、フリーランスや業務委託として働いたり、オフィス勤務ではなくテレワークを希望したりするなど、雇用形態や雇用環境の選択肢が増えています。「会社のために働く」というよりもやりがいやワークライフバランスを求める傾向があり、多様性が認められていないと人材の流出が起こるかもしれません。従業員の価値観を把握する手段としても、タレントマネジメントに注目が集まっています。
技術革新
様々な分野に革新的な技術やテクノロジーが登場しており、これまでできなかった部分が可視化・数値化できるようになっています。
人事分野も例外ではなく、HRテック(Human Resource Teck)が登場しました。ビッグデータやAIなどを活用したツールも続々登場しており、人材管理・評価やタレントマネジメントに関するものもあり、タレントマネジメントを導入しやすくなっています。
タレントマネジメントのメリット
タレントマネジメントを導入するメリットは、以下の4つです。
- 人材のモチベーションを向上する
- 人材のスキルがアップする
- 顧客満足度が上昇する
- 人材採用や育成のコストを抑えられる
5つのメリットを理解し、良い効果を最大限に発揮させましょう。
人材のモチベーションを向上する
タレントマネジメントによって、人材が持つ特性に合わせて、育成やキャリア開発、目標設定を行うことで、モチベーションの向上を期待できます。
自身が希望する働き方や価値観を叶えられると、仕事への満足度が高まり、企業からの信頼に応えたいと思うケースが多いです。
一人ひとりに合った配置や育成プランなどで活躍の場が広がれば、企業へのエンゲージメントも高まっていきます。転職など流動的になりつつある日本においても、優秀な人材が長く活躍し、定着率アップを実現できるのではないでしょうか。
人材のスキルがアップする
タレントマネジメントは、従来の従業員全体を管理する方法ではなく、従業員一人ひとりに目を向けたマネジメント方法です。
それぞれが持つ能力や価値観、マインドなどを把握することによって、個人に合った働き方を実現し、最適な育成プランを計画しやすくなります。個人が持つスキルをさらに伸ばしたり、配置転換で潜在能力を引き出したりするなど、人材のスキルアップや活躍の場を提供できることがタレントマネジメントのメリットです。
顧客満足度が上昇する
タレントマネジメントが上手く機能すると、従業員一人ひとりの仕事の質が上がり、モチベーション高く業務に取り組めるようになります。
数値化は難しいものの、タレントの質が上がることで顧客満足度の向上を期待できるのもタレントマネジメントの強みです。顧客に寄り添ったヒアリングや提案ができたり、細やかなフォローができたりすれば、顧客は担当者に対してはもちろん、企業にも信頼感が芽生えるでしょう。
顧客満足度の上昇によって、企業全体の成果が高まったり、企業の評判が良くなったりするなど、様々な好影響につながっていく可能性があります。
人材採用や育成のコストを抑えられる
人材獲得競争が起きている中でも、企業に必要な優秀な人材を採用するのは成果を高めるために有効な方法です。しかし、人材採用には費用が多くかかり、育成するために人的コストや時間がかかります。組織に馴染むかどうかも重要なポイントであり、ミスマッチが起こるかもしれません。
タレントマネジメントでは、既存の人材に対してアプローチするため、採用コストを抑えられます。企業の方針や環境に慣れていることもあり、育成コストも削減しやすいです。人材採用が起きることがあるミスマッチも防ぎやすく、様々な面でコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。
タレントマネジメントのデメリット
タレントマネジメントにはデメリットもあるので、注意して実施しなくてはいけません。デメリットをしっかり対策し、タレントマネジメントの効果を十分に引き出しましょう。
導入・運用にコストがかかる
タレントマネジメントを導入するためには、ツールを活用するのが一般的です。ツールを導入する費用や利用料金などが発生するため、金銭的なコストを確保する必要があります。
運用する上では、労力や時間などのコストが多くかかるのが難点です。従業員一人ひとりのデータ抽出や更新、管理に加え、各事業部との情報共有や他のツールとの使い分けなどに工数がかかります。
工数がかかったとしても上手く実施できれば、多くのメリットを得られますが、データの更新を怠ったり、情報取得が目的になったりしてしまうと失敗に終わりやすいです。機能が必要以上に充実していると、導入で満足しがちなので、必要十分なツールを導入し、継続的に運用していきましょう。
タレントマネジメントを周知できていないと失敗しやすい
タレントマネジメントは、従業員一人ひとりに対するものであり、賛同と協力を得る必要があります。個人情報を収集することに、抵抗を感じる社員もいるでしょう。そのような中で、十分に広報活動を行わずに実施してしまうと、反発を受けて失敗しやすくなります。
タレントマネジメントを実施する方針が固まったら、従業員に対して説明会や研修の場を設け、実施する目的やメリットなどをできるだけ丁寧に説明しましょう。
マネジメント人材次第で成功を左右する
タレントマネジメントの中心として役割を担うのは、マネージャーやリーダーなどのマネジメント人材です。データを活用して従業員にアプローチするのはマネージャーやリーダーであり、力量や信頼など次第では、部下の能力を引き出せない場合があります。
マネジメント力に欠けるマネージャーやリーダーがタレントマネジメントを妨げる場合は、配置転換も検討しなければいけないでしょう。
マネジメントに長けている人材でも、タレントマネジメントをあまり理解していない場合も失敗しやすいです。マネジメント人材がタレントマネジメントを理解できるように、勉強会やセミナーなどを開催すると良いでしょう。
継続できないと効果を得られない
タレントマネジメントは、短期的・単発で成果が出るものではありません。人材の育成や組織の意識改革などは数年かかることもあり、長期に渡って実践する必要があります。
短期的に実践しようとしたり、途中で形骸化したりすると、タレントマネジメントは失敗してしまいます。長期的な戦略を立てた上で、分析や改善を繰り返しながら実施しましょう。
まとめ
タレントマネジメントは、人材に着目したマネジメント手法です。個々の能力や価値観などを可視化することによって、適切な人材育成や配置ができるようになり、人材採用コストの削減や生産性の向上などを期待できます。
一方で、導入・運用にコストがかかることやマネジメント人材の力量に影響されることなど、デメリットもいくつかあります。メリットとデメリットをしっかり理解して、タレントマネジメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。