ジョブ・クラフティングとは? 5つのメリットや基本の手順を紹介
ジョブ・クラフティングとは、従業員が業務に対する価値を見出し、主体的に仕事に取り組める環境を整えるための活動です。
- 具体的にどのようなものか
- ジョブ・クラフティングが必要とされている理由とは?
- 具体的な取り組み方について知りたい
このように思っている方に向けて、ジョブ・クラフティングの概要や特徴を解説したうえで、取り組むメリットや実践方法について説明します。また、円滑に進めるために便利なツールも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ジョブ・クラフティングとは?
従業員のやる気ややりがいを引き出して、組織を活性化したいと考えている企業は多いのではないでしょうか。モチベーション低下ややりがい搾取などを改善し、組織の成果につなげる概念をジョブ・クラフティングと言います。
この記事では、ジョブ・クラフティングの定義や実施する目的、実施する際の注意点を解説します。ジョブ・クラフティングを活用した組織を活性化するポイントもぜひ参考にしてください。
ジョブ・クラフティングの定義
ジョブ・クラフティングを直訳すると、仕事を構築する・作るといった意味の言葉になります。ビジネス用語では、一から仕事を生み出すという意味合いではなく、仕事を主体的に捉え直すことを指す考え方です。
会社の方針に従って働く、上司の言われたことをするといった受け身の姿勢では、モチベーションや生産性が上がりません。生産性を上げるために、前向きに主体的な行動を起こせるように考え方や気持ちを変えていくのが、ジョブ・クラフティングです。
ジョブ・クラフティングは、アメリカのイェール大学ビジネススクールのエイミー・レズネスキー教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン名誉教授が中心となって提唱しました。
また、経営学者であるピーター・ドラッカーの「3人の石工」という話もジョブ・クラフティングの理解を深めるためによく使われます。
ドラッカーはヨーロッパを旅行中に出会った、3人の石工に対して「何をしているのですか」と尋ねたところ、答えは以下の通りでした。
1人目「親方の指示でレンガを積んでいる」
2人目「レンガで塀を作っている」
3人目「人々がお祈りをするための大聖堂を造っている」
3人目の石工のみ、仕事に目的を持って、主体的に取り組んでいる姿勢を読み取ることができます。これこそが、ジョブ・クラフティングの本質を表現しているのです。
では、ジョブ・クラフティングが注目されている理由やジョブ・デザインとの違い、メリットを順に見ていきましょう。
ジョブ・デザインとの違いとは
ジョブ・クラフティングと似たビジネス用語に、ジョブ・デザインという考え方があります。ジョブ・デザインは日本語で「職務設計理論」と表現されるもので、従業員がやりがいやモチベーションを持って働けるように、経営者が仕事の設計や割り振りを見直すことです。
一方、ジョブ・クラフティングは、従業員自身が仕事の捉え方や考え方を見直し、主体的に捉え直す手法です。
つまり、両者では「活動に取り組む主体」と「活動の対象」が異なるのです。ジョブ・デザインは経営者が、ジョブ・クラフティングは従業員が主体となって活動します。また、ジョブ・デザインでは「仕事の設計」を、ジョブクラフティングでは「仕事の捉え方」を見直します。
仕事に対するモチベーションややりがいを改善するという点では共通していますが、アプローチの仕方や主体が異なることを覚えておきましょう。
ジョブ・クラフティングが注目されている背景
ジョブ・クラフティングが注目されている理由のひとつは、顧客ニーズの多様化や複雑化、トレンドの流動化です。さまざまなテクノロジーや商品・サービスが次々に登場する現代では、顧客ニーズも一定ではなく、多様なニーズが複雑に存在するようになっています。トレンドの移り変わりも早く、ビジネスにはスピード感が求められているのです。
従来のトップダウン方式のビジネスの場合、意思の伝達に時間がかかりやすく、ニーズや変化に対応するのが難しくなっています。経営層や上司からの指示に従っているだけでは成果は期待できず、従業員が主体的に動き、スピーディーな意思決定ができるように、ジョブ・クラフティングが重要視されています。
また、働き方の多様化もジョブ・クラフティングが注目されている理由です。年功序列や終身雇用が崩壊しつつある中で、与えられた仕事をこなすよりもやりがいを求める人材も増えています。受け身の仕事をせざるを得ない環境では充実感を得られず、モチベーション低下や退職などを招いてしまうでしょう。
時代の変化に関わらず、魅力的な商品・サービスを生み出すためには熱意も必要です。ジョブ・クラフティングによって従業員の仕事に対する主体性や意識を高め、熱意を引き出す工夫が必要になってきていると言えるでしょう。
ジョブ・クラフティングで得られる5つのメリット
従業員の仕事に対する意識を変えていく取り組みであるジョブ・クラフティングは、実践することで主に5つのメリットを得られます。それぞれについて詳しく解説しますので、メリットへの理解を深めたうえで実践してみてください。
従業員のモチベーションが向上する
「やらされている仕事」が「自ら進んでやる仕事」に変化することで、従業員の仕事に対するモチベーションの向上が期待できます。仕事に対してやりがいを感じられれば、従業員のモチベーションは自ずと高まるでしょう。また、自社が掲げているビジョン・理念への共感が深まったり、目標への達成意識の高い従業員が増えたりすれば、従業員同士の競争力の向上も望めます。
モチベーションを高く仕事に取り組める従業員が増えれば、パフォーマンスが向上し会社全体の利益の増加が期待できるでしょう。
従業員エンゲージメントが向上する
ジョブ・クラフティングを進めることで、従業員のエンゲージメントも向上します。エンゲージメントとは、人材領域においては従業員の会社に対する愛着のことを指します。会社に愛着を抱く従業員が増えれば、「会社と共に自分も成長していきたい」という意識が高まり、自分の成長だけでなく会社の発展に対するモチベーションもアップします。
結果として、長期的に会社で働き続ける従業員や、会社への忠誠心の高い従業員が増えて、社内全体の環境が好転するでしょう。
離職率の低下につながる
少子高齢化の影響で人材不足が深刻化している中で、多くの企業にとって離職率を下げることは急務だと言えるでしょう。とくに、採用後まもなくして離職する従業員が多い状態では、採用や研修プログラムにかかるコストが無駄となってしまいます。また、新たな人材を確保するために求人を出したりといった採用活動に臨まなければならず、通常業務を圧迫しかねません。
そんな中で、ジョブ・クラフティングを通してモチベーションやエンゲージメントの高い従業員が増えれば、離職率の低下を期待できます。やりがいをもって楽しく仕事に取り組める従業員や企業への深い愛着がある従業員は、自然と長期的に働き続けたいと感じるものです。
人材が成長しやすくなる
ジョブ・クラフティングを促進すれば、企業が深く介入しなくとも自ら成長する人材が増えます。「責任の重い業務はしたくない」と考える従業員が減ることで、自然発生的なリーダーが生まれやすくなるでしょう。結果として、人材育成が活性化して高いパフォーマンスを発揮する従業員が増えます。
これまで人材育成に割いていた予算も削減できます。とはいえ、人材育成を従業員に丸投げすると、予期せぬトラブルが生じたりあらぬ方向に進んでしまう必要があるため、ある程度の介入は必要です。
新しいアイデアが創出しやすくなる
ジョブ・クラフティングに取り組めば、その名前のとおり自ら仕事をクラフティング(創り出す)従業員が増えます。言われたことを淡々とこなすのではなく主体的に仕事に取り組む従業員が増えることで、新しいアイデアを積極的に考え出すようになるでしょう。
これにより、従来の仕事の問題点や課題を従業員自ら改善するケースも発生します。ただし、既定のルールから大きく逸脱した従業員を野放しにしてしまうとかえって業務に支障を来したり、業務が属人化してしまったりする恐れがあるため、注意が必要です。アイデアを出し合う場を設けて、実施するか否かの判断や自社に馴染みやすくなるよう調整する試みが必要です。
ジョブ・クラフティングに必要な3つの視点とは
ジョブ・クラフティングを行ううえで、3つの視点を押さえる必要があります。どれか1つでも欠けてしまうと円滑にジョブ・クラフティングを進められなかったり、思うような成果を出せなかったりする恐れがあるため、あらかじめ理解しておきましょう。
作業クラフティング
作業クラフティングとは、主体的に業務を構築していくことを指します。具体的には、仕事の効率を高めるために業務を追加・削除することや従来の業務プロセスを変更することなどが挙げられます。
これにより、業務が従来よりもスピーディーになったり、従業員にとって取り組みやすくなったりといったメリットを得られるでしょう。
人間関係クラフティング
人間関係をより良いものにするための視点を、人間関係クラフティングと呼びます。質の高い仕事を行ううえで良好な人間関係を築くことは不可欠ですが、個人の意識が強くなった現代では、人間関係に消極的な従業員が増えていると感じる従業員もいるのが実情です。
人間関係クラフティングを行うことで、従業員が仕事を通じて自ら多くの人と人間関係を構築し、高い意識を持って一緒に仕事に取り組めるようになるでしょう。また、現在の状況を正しく把握したうえで、他の従業員と協力関係を深めて仕事のやりがいや成果を高められます。
認知クラフティング
3つ目の視点である認知クラフティングは、ひとことで言うと仕事に対する認知そのものをクラフティングすることです。仕事の質・仕事内容だけでなく手順を見つめ直し、必要に応じて改善することや、自分が取り組んでいる仕事に対して社会的観点から価値を見出したりすることを指します。仕事を通じて自らが生み出した成果によって、社会貢献をしていることを認識することで、モチベーションやパフォーマンスの向上につながるでしょう。
ジョブ・クラフティングの主なやり方
ジョブ・クラフティングを進めたいと感じているものの、具体的に何をすれば良いかわからないと感じている人もいるでしょう。ここでは、ジョブ・クラフティングの実践方法を5つの手順に分けて詳しく解説します。
業務内容の洗い出す
まずは、現状社内で抱えている業務内容を洗い出しましょう。方法としては、役員ではなく従業員一人ひとりに現状抱えているタスクを書き出してもらいます。役員がタスクを洗い出そうとしても、従業員毎の業務を正確に把握していない可能性が高いためです。
タスクを書き出す際には、業務上発生するすべての作業を抽出することを意識しましょう。ざっくりとした洗い出しでは、ジョブ・クラフティングの効果を実感しにくいです。あとからタスクが発覚することを防ぐためにも、丁寧に細かく洗い出していきましょう。
従業員の強みや能力を分析する
次に、従業員の強みや能力を多角的な視点で分析します。現状、従業員が抱えている仕事の目的を明らかにしたうえで、なぜその仕事に取り組む必要があるのか従業員と一緒に明確にしましょう。そのうえで、これまでに仕事に対して起こした行動と成果を従業員に書き出してもらい、彼らの強みを分析していきます。
従業員が現時点で保有しているスキルだけでなく、興味関心や特技なども踏まえて強みを明確にすることが大切です。自覚しているものだけでなく、上司や同僚などの第三者目線で従業員の強みを言語化することも必要でしょう。従業員自身の認識と客観的な強みがズレている恐れがあるためです。
従業員の仕事に対する捉え方の見直す
従業員の強み・能力が明らかとなったら、彼らの仕事に対する捉え方を見直していきます。洗い出したタスクと強み・能力を組み合わせることで、「やらされている仕事」に積極性を見出せます。このように業務に対する捉え方を根本的に見直すことで、退屈な単純作業と捉えていた仕事に価値を見いだせて、彼ら自身にとって重要な仕事だと解釈できるでしょう。
仕事の方法や人間関係の見直す
続いて、仕事に取り組む際の方法や、仕事における人間関係を見直しましょう。従業員の抱えているタスクや自己分析を踏まえて、仕事の内容や方法に改善の余地がないかを考えていきます。時にはマネジメント層が、考える過程をサポートすることも効果的でしょう。従業員が自身の仕事だけでなく、他の従業員と協業したり、新しく人間関係を育む方法を見直したりできるよう、働きかけることも大切です。
ここまでの段階を丁寧に踏めば、ジョブ・クラフティングが機能していきます。
上記の手順を繰り返し行う
ジョブ・クラフティングは、一度の取り組みだけで大きな成果を発揮できるとは限りません。これまでに紹介した4つの手順を繰り返し行う必要があります。なぜなら、従業員が抱えているタスクや職場での人間関係は日々変化しているものだからです。
一旦仕事の方法や人間関係を見直して業務に対するモチベーションや会社へのエンゲージメントが高まったとしても、新たに発生した仕事には価値を見いだせない、といったこともあるでしょう。また、人事異動によって新しく人間関係を構築し直さなければいけないこともあります。
その他にも、一度ジョブ・クラフティングを通じてモチベーションやエンゲージメントが向上しても、時間が経つにつれて効果が薄れてしまうケースも想定されます。
そのため、定期的に上記の手順を繰り返す必要があります。半年に一度・1年に一度といった具合にジョブ・クラフティングに取り組む期間を定期的に設けると良いでしょう。
ジョブ・クラフティングを行う際の注意点
ジョブ・クラフティングを実行する際には、3つの注意点を踏まえないと十分な効果が現れない恐れがあります。それぞれについて詳しく解説しますので、ジョブ・クラフティングに取り組む前に理解しておきましょう。
属人化につながらないようにする
従業員の主体性や自分らしさを尊重しすぎると、仕事の属人化を起こしやすくなります。属人化とは、「この仕事はAさんにしかできない」という状態で、Aさんが異動や退職などで離れることになったときに問題が起きやすいです。
従業員それぞれが他の仕事を知らないというブラックボックス化を起こさないように、主体性を認めつつも、情報共有や標準化が必要になります。
具体的には、従業員の業務に対して上司がフィードバック・評価する機会や業務への取り組み方やプロセスを共有する機会を定期的に設けることが有効です。こういった取り組みにより、従業員の仕事を軌道修正できる環境を整えられるでしょう。
チームワークが重要な仕事には向いていない
ジョブ・クラフティングは、従業員の自主性による主体的な行動を求めているため、チームワークが必要な仕事にはあまり向いていません。
あくまでも個人としてのやりがいを見出すための手法であるため、チームワークが重要な仕事で実践してしまうと、従業員の統制が取れなくなったり、仕事への考え方が対立してしまったりする恐れがあります。このようなトラブルが生じると、業務が円滑に進まなくなってしまう事態も想定されるでしょう。
個性を認めすぎて意見や方針がまとまらないと、プロジェクトの進捗や成果に影響が出てしまいます。仕事の性質を見極めた上で、ジョブ・クラフティングの実施を検討しましょう。
上司や企業の考えを押し付けないようにする
ジョブ・クラフティングの意義を見誤ると、「やりがい搾取」になってしまう場合があります。やりがい搾取とは、やりがいを盾に厳しい労働条件を迫ることです。「主体性を認めるから長時間労働は受け入れるべき」といった考え方では、従業員はついてきません。
ジョブ・クラフティングの主体は、従業員自身です。従業員自ら仕事の意義や自分らしさを見出し、やりがいを見つけられるように働きかける必要があります。
経営者・役員・上司の価値観を押し付けるのではなく、主体性が発揮できる機会を残すよう心がけましょう。組織として成長するためには、社員全体が理念や価値観を共有することも大切ですが、それでは「やらされている感」が強くなり、仕事を単純作業と捉える従業員が増えてしまいます。
ジョブ・クラフティングに役立つ「Talknote」
社内でジョブ・クラフティングを取り入れる際におすすめなのが、Talknoteというツールです。本記事ではジョブ・クラフティングの3つの視点を紹介しましたが、Talknoteは作業クラフティングや人間関係クラフティングに役立つものです。
Talknoteとは、タスク管理や情報共有を円滑に進めるために開発されたツールで、使用することで従業員がタスクを管理しやすくなったり、人間関係を育みやすくなったりします。Talknoteを活用することで、ジョブ・クラフティングの成果を可視化しやすくすることができます。
無料トライアルや資料ダウンロードもできるため、ぜひ1度使ってみてください。
まとめ
ジョブ・クラフティングとは、仕事への考え方や姿勢を見直し、主体性ややりがいを見つける手法です。主体的な行動や成長、従業員満足度の向上などにつながり、独創的なアイデアや創意工夫も生まれやすくなります。結果として、企業全体の利益向上や社会貢献の促進につながるでしょう。
ジョブ・クラフティングを組織に落とし込むためには、業務を見つめ直す機会を意図的につくったり、上司が率先して取り組んだりすることが大切です。属人化ややりがい搾取などの注意点・デメリットに気を付けて、ジョブ・クラフティングを実践しましょう。