目標管理方法「OKR」とは? MBO・KPIとの違いや、効果的な使い方を解説
「OKRとは一体どのようなものなのか?」
「MBOやKPIとの違いは?」
「OKRの導入事例も知りたい」
このようにお考えの経営者・人事の方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、OKRの基本的な知識と導入事例について詳しく解説します。
- OKRの基本的な知識がわかる
- OKRとKPI・MBOの違いがわかる
- OKRの成功・失敗事例を学べる
会社の成長にも大きく貢献するであろうOKR。ただし、導入に失敗しないためには、入念に下準備をしておく必要があるでしょう。いざ導入したときの転ばぬ先の杖として、ぜひ今回の内容をお役立てください。
OKRとは?
ではさっそく、OKRとは一体どんなものなのか? その注目される背景や言葉の意味をご紹介します。
OKRの歴史と注目される背景
最近、注目を集めているOKR。ですが、実はその言葉が誕生したのは今から約50年も前。
アメリカのIT企業「Intel(インテル)」から発祥し、その後「Google(グーグル)」や「Oracle(オラクル)」など、シリコンバレーの大手企業も続々とOKRを取り入れるようになりました。
OKRとは、Objectives and Key Results の頭文字をとった略語で、「目標と主要な結果」という意味です。OKRにおけるゴールは、「全社員が同じビジョンに向き、明確な優先順位をもちつつ、一定のペースで計画を進める」ことです。
またOKRには、目標管理の方法として知られる「MBO」の効果をより高めるために開発された背景があります。(MBOとは、Management By Objectiveの略語。詳しくは後述します)
時代が急速に進む現代において「イノベーションを起こし、社員と企業に一体感をもたせたい」という企業ニーズがあったことも、浸透理由のひとつです。
Objectives:目標
まずは、OKRの「O」の部分を見ていきましょう。Objectivesとは「目標」を意味しており、OKRにおける目標は「シンプルであること」が特徴です。
また、Objectivesは、正確な数字であらわすものではなく、社員あるいはチームのモチベーションを高めるために、覚えやすい内容であることが基本です。
- シンプルで覚えやすいもの
- 個人・チームのモチベーションを高めるもの
- 正確な数字ではなく「抽象度」の高いもの
- 1〜3ヶ月ほどで達成できるもの
Key Results:主要な結果
次に、OKRの「KR」の部分です。KRとは、Key Resultsのことで、「主要な結果」を意味します。Objectiveで設定した目標に対して、「進捗度をはかるための細かい指標」ともいえるでしょう。端的にいうと「数字であらわせるもの」です。
- 正確な数値で測れるもの
- ストレッチのかかったもの → 「頑張れば達成できそう」といった水準の目標
- チームメンバーの自信に対して50%程度の難易度のもの
OKRとKPI・MBOとの違い。うまく併用する方法について
OKRと混同しやすい用語に「KPI」や「MBO」があります。それぞれの用語とOKRには、一体どのような違いがあるのでしょうか。また、うまく併用する方法などもご紹介します。
KPI
KPIは、目標達成までのプロセスを計測する指標のこと。Key Performance Indicator の略語で、日本語では「重要業績評価指数」「重要経営指数」といった意味があります。
KPIは、Webマーケティングや営業の現場でよく使われています。たとえば、Webサイトからの新規顧客獲得件数の目標を30件に設定した場合、KPIを「検索エンジンからのセッション数」などと設定します。
その後、Googleアナリティクスなどを使い達成までのプロセスをチェックするわけです。
OKRでは、チームのモチベーションアップのために高い目標を設定し、進捗率は60〜70%が理想とされています。一方のKPIは、「プロセスを確認する指標」のため、当然進捗率100%以上が理想です。OKRで大きな目標に向かいつつ、KPIで「正確な現状把握」をすることが重要といえるでしょう。
MBO
MBOとは、Management By Objectiveの略語で、「重要目標達成指標」のこと。つまり最終的な目標を数値であらわしたものを指し、わかりやすい例として「売上」や「顧客数」などがあります。
OKRは、目標設定をすることで社員のモチベーション向上を目的としていますが、MBOでは「業績に基づいた社員の評価」が目的です。
MBOには、業績に向かって目標を管理するため、社員のスキル向上を見込めるメリットがあります。進捗率は100%以上が理想とされており、上司と社員でのみ共有されるのが特徴です。
「個人のモチベーション」に焦点を当てているOKRに対して、MBOは「組織としての目標達成」を目的としているため、同時に走らせるのが理想といえるでしょう。
OKR・KPI・MBOの比較表
OKR・KPI・MBOの比較表は以下のとおりです。
目的 | サイクル期間 | 理想の達成水準 | 共有範囲 | |
OKR | 組織としての目標達成 | 1〜3ヶ月 | 60〜70% | 全社 |
---|---|---|---|---|
KPI | プロジェクトの目標達成 | プロジェクトごとに変動 | 100% | 全プロジェクト・部署メンバー |
MBO | 業績に基づいた社員の評価 | 半年〜1年 | 100% | 全上司と部下 |
注目したいのが「サイクル期間」です。OKRは、他と比べると「3ヶ月」と短め。なぜ期間が短くなるかというと「当初の目標とズレが生じるから」です。
KPIやMBOと比べて、目標設定が抽象的なため、状況が変化しやすくなります。ただ、3ヶ月で終わりという意味ではなく「3ヶ月ごとに目標を見直す」ということ。3ヶ月という短い期間だからこそ、「直近のタスクに集中できる」というメリットもあります。
OKRの導入事例
OKRの基本的な部分を解説してきましたが、ここでは「OKRの導入事例」をご紹介します。アメリカのシリコンバレーで始まったOKR。現在も名だたる企業で導入されています。
言わずと知れたシリコンバレーの大企業、Google(グーグル)。検索エンジン「Google」を中心に、オンライン広告やクラウドコンピューティング、ソフトウェアなど、さまざまな事業を手がける会社です。
同社がOKRを導入したのは、2000年初期。当時、Googleに出資していたジョン・ドーア氏が、OKRを提唱したインテルの元CEOアンディ・グローブ氏からOKRを直接学んだことで知られています。
- 全社的に「あなたのOKRは何ですか?」と問いかけるフランクな環境が整っている
- 「上司は部下のために働く」という認識が根付いているため、部下のことを理解しなければOKRを決められない
- 「ベストを尽くせば達成できる」というストレッチゴールの推奨
OKR導入からすでに20年が経過している同社。ストレッチゴールの徹底や、OKRが当たり前のように実施される環境づくりに注力したことで、世界的企業に成長した事例ともいえるでしょう。
【参照】 Google | OKRを設定する
メルカリ
株式会社メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションのもと、フリーマーケットアプリ「メルカリ」を運営する会社です。
日本のみならずアメリカでの展開や、キャッシュレス決済「メルペイ」といったサービスも提供しています。
今や2,000人ちかくの社員が在籍する同社ですが、社員数が50〜100人のタイミングでOKRを導入していたといいます。導入の背景には、「会社の規模拡大にともなって、会社と個人の目標にズレが生じるから」という意図があったそう。
またメルカリでは、独自のOKR設定があることでも知られています。
- ストレッチゴールを掲げるため、OKRを「人事評価と結びつけない」ことを徹底
- OKRでのフィードバックを円滑にする「Reviews」という独自システムの開発
- OKRについて、上司と部下が「1on1ミーティング」で話しあえる環境づくりに注力
会社が大きくなる前にOKRを定着させたことで、急成長にも対応できる経営体力が身についた事例といえるでしょう。
【参照】 Resily | メルカリのOKR導入事例について
Chatwork
Chatwork株式会社は、「働くをもっと楽しく、創造的に」という理念のもと、ビジネスチャットツール「Chatwork(チャットワーク)」を運営する会社です。
同社がOKR導入に踏み切ったのは、2014〜2015年ごろ。大きな資金調達が実現したことで経営のアクセルを一気に踏んだものの、「会社の戦略が社員に浸透していない」「社員が多すぎて評価が追いつかない」という状態に陥ってしまったといいます。
そこで、チャレンジングな目標設定をしつつ、しっかりと人事評価をおこないたいと考え、OKRを導入することに。
- 「OKRを通してどれだけチャレンジしたか?」を評価指標とした
- OKRを単なる評価指標で終わらせず「チャレンジのためのコミュニケーションツール」として浸透させた
- 無理やり制度に合わせるのではなく、あくまでも「自然体」での運用を意識した
チャレンジングな姿勢を保ちつつ、OKRを評価指標としてうまく取り入れた事例といえるでしょう。
【参照】 組織づくりベース | 【MEETUP#01 俺のOKR】Chatwork西尾氏「『俺のOKR』自然体で成果を出そう」
OKRの導入失敗事例から学ぶ
前章では、OKRの導入に成功した企業事例をご紹介しました。たしかに、OKRが会社の成長をもたらしてくれるのは事実です。
しかし、下準備なしでOKRを導入しても、うまくいかないのが現実でしょう。ここでは、OKRの導入に失敗してしまった事例をご紹介します。
1. 上層部だけでOKRを設定してしまう
社員のモチベーション向上のために、組織全体での目標を定めるOKR。たしかに、目標の最終決定は上層部が行いますが、だからといって社員の意見を無視するのはナンセンスです。
上層部が勝手にOKRを定めた場合、仮に失敗したとき、社員としても「自分たちの意見を聞かずに実行した上層部も悪い」といった不満が残るでしょう。
会社の成長に必要な知識や経験、あるいは現場の声を知っているのは、紛れもなく「社員」です。社員一人ひとりが「OKRを決める有力なヒント」をもっています。
OKRでの目標をクリアするためには、そういったヒントを活かし、目標設定をおこなうことが大切です。
たとえば、OKRを決める下準備として、
- 会社としての目標を全社員にヒアリング
- 部署ごとにヒアリング結果を集める
- もっとも良かった目標をリーダーが決める
- 上層部に提出し、最終決定
といった順序がよいでしょう。何よりも「社員の意見に耳を傾ける」ことが大切です。
2. 達成不可能な目標を掲げていた
そもそも「OKRの設定値」を間違えたことで、失敗してしまうケースも。
OKRでは「ベストを尽くせば達成できそう」な目標を設定する必要があります。達成の難易度は高いものの、メンバーの努力によって目標を達成することで、個人のモチベーション向上へとつなげるのです。
一方、誰が見ても明らかに達成不可能な目標を設定した場合、「こんな目標達成できない」「失敗するのが当たり前」といった思考になるため、社員のモチベーション低下を招いてしまいます。
逆に、達成が簡単すぎる目標もNGです。目標をクリアできるという点においては、成功ともいえるかもしれません。しかし、OKRの観点からすると失敗です。
自信の度合いが10%の目標も、90%の目標も、OKR的な観点で見ると失敗といえます。高すぎず低すぎず「50%」になる目標を設定しましょう。
OKR導入に失敗しないために
以上の失敗事例から、「会社全体で意思決定をおこなうこと」「高めの目標を定めること」が重要といえるでしょう。
たしかに、会社としてのビジョンや目標を決めるのは上層部です。しかし、会社を支えているのは「一人ひとりの社員」に他ならず、個人の意見を無視してしまえば、企業成長にも結びつかないでしょう。そのため、OKRを決める際は「社員ファースト」な視点をもっておくことが大切です。
また、OKRで高めの目標を設定することで、社員・会社の成長スピードも早くなるでしょう。会社として大きくなるためにも、「達成できるかできないかわからない。でも頑張れが達成できるかも」といった高い目標を設定することが大切です。
【まとめ】OKRとは?
本記事では、OKRについてお伝えしてきました。
- OKRとは、Objectives and Key Results の頭文字をとった略語で「目標と主要な結果」という意味
- OKRの「O」は、Objectives。「目標」を意味しており、「シンプルであること」が特徴
- KRとは、Key Resultsのこと。「主要な結果」を意味し「進捗度をはかるための細かい指標」といえます
- 個人のモチベーションを維持するためにも、会社全体でOKRを共有しましょう
- 会社全体で意思決定をおこない、自信度50%の目標を設定する
自社でOKRをうまく回すためにも、今回ご紹介した成功事例や失敗事例を参考にしてください。あらかじめ下準備をしっかりと行っていれば、OKRが会社の成長にも大きく役立ってくれるはずです。